マグミクス2021.11.11
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悲劇のきっかけとなった、さまざまなストレスの蓄積
TV放送された『機動戦士Zガンダム』と、のちに同作を再構成した劇場版3部作とでは、クライマックスにおける主人公・カミーユの運命が異なる。画像は劇場版『機動戦士Zガンダム -星を継ぐ者-』DVD(バンダイビジュアル)

本日11月11日は、『機動戦士Zガンダム』の主人公、カミーユ・ビダンの誕生日とされています。ガンダムシリーズの主人公のなかでも人気が高いといわれているカミーユ。その経歴と活躍を振り返ってみましょう。

カミーユは小説版によると、地球生まれのコロニー育ち。出身は東京近郊の新座市らしいです。父親のフランクリン、母親のヒルダはともに地球連邦軍の技術士官で、家庭をかえりみない仕事人間でした。そのことがカミーユに孤独な子供時代を過ごさせ、両親への不満を蓄積させることになります。

また、「カミーユ」という名前が女性のものという意識が強かったため、必要以上に劣等感をいだき、小型飛行機のホモアビスやジュニア・モビルスーツの操縦、空手部に入るなどといった男性的な趣味に傾倒しました。こういった内に溜めたストレスが、カミーユが本来持つやさしさとは別に、ささいなことから感情的な怒りに身を任せる暴力的な性格を生んだのかもしれません。

この「感情的になりやすい気質」が、因縁の相手となるジェリド・メサとのトラブルを生み、捕らえられたMPへの恨みからガンダムMk-IIの強奪、それを持って反地球連邦組織エゥーゴに参加するきっかけとなりました。物語的にはそう見えませんが、この経緯だけを見ると、些細な過ちから不良化の道へと、斜面を転がるように進む少年を思わせる行動です。製作当時、富野由悠季監督がカミーユに今の少年像を投影した部分が、こういうところにあるのでしょう。

エゥーゴに参加してからのカミーユはニュータイプを期待されるエースとして活躍しました。それゆえの勘違いや増長もありましたが、出資者であるウォン・リーの「修正」が変わるきっかけになります。そして、地球で出会った強化人間フォウ・ムラサメとの出会いが、カミーユを大きく成長させることになりました。

フォウとの出会いで自分の名前に対するコンプレックスが消え、人の生き死にや戦争への向き合い方をあらためて考えるようになったカミーユですが、まだ少年がかかえるには大きすぎる問題だったのです。戦争という過酷な環境のなかで、周囲の大人たちもカミーユの抱えた問題と真摯に向き合えず、本人も大人であろうとするがゆえに悩みを打ち明けることなく内に抱え込んでいきました。

それが破裂してしまったのが、グリプス2をめぐる最終決戦です。ニュータイプとして超常的な力を発揮したカミーユは己の限界を超え、パプティマス・シロッコの怨念までをも取り込んだ結果、戦争としては勝利をつかみますが精神崩壊という結果を迎えました。

こうしてカミーユは戦場から去っていきましたが、続編である『機動戦士ガンダムZZ』では元に戻ったように思える描写が見られます。そして、その後の歴史には大きく関わることなく表舞台から姿を消したようでした。

時代とともにカミーユの運命が変わる
TVアニメ版でカミーユが精神崩壊するきっかけを作った、パプティマス・シロッコ。画像は「機動戦士Zガンダム DVD Vol.13」(バンダイビジュアル)

実は、『Zガンダム』最終回はカミーユの死で幕を下ろす予定もあったそうです。しかし、これを聞いたカミーユの声優である飛田展男さんは「死んでたまるか」と熱のある演技を続けました。これを見た富野監督は「キャラクターに根性があったから殺せない」と、実際に放映されたストーリーへと変更したそうです。

放映当時、序盤で見せたカミーユのエキセントリックな行動には批判も少なくなく、当初はファンからの人気も高くありませんでした。しかし、劇中で見せる活躍を見ているうちにカミーユへの評価は高まります。放映のほとんどを占めた1985年ではなく、翌年1986年のアニメージュ主催のアニメグランプリ男性キャラ部門で1位だったことからも、尻上がりにその人気が高まったことがわかるでしょう。

また、富野監督から「カミーユが宇宙世紀で最高のニュータイプ」であることが言及されています。そのことは「バイオセンサー」というシステムを使い、Zガンダムというマシンの限界を超えて数々の超常的能力を起動させたことからもわかりますが、カミーユのニュータイプ能力は他のニュータイプのそれとは異質のものがありました。
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