0001鳥獣戯画 ★
2021/03/11(木) 14:30:37.12ID:CAP_USERhttps://www.yomiuri.co.jp/column/manga/20210309-OYT8T50036/
・赤坂アカ・横槍メンゴ『【推しの子】』(集英社、既刊3巻)
本コラムを2019年2月にスタートする時、タイトルをあまり深く考えずに「一押しマンガ」とした。しかし、「一推しマンガ」にすべきだったかも……と、ちょっと後悔している。
「推し」という言葉が、最近とみに、特異なニュアンスを帯びるようになってきたからだ。
●言葉はメジャーに でも意味は?
NHKの「よるドラ」枠で、連続ドラマ『だから私は推しました』が放送されたのは2019年7月。白石聖さん演じる地下アイドルに、桜井ユキさん演じるアラサーOLがハマっていくというサスペンスタッチの物語で、題材も脚本も野心的な佳作だった。
サブカルチャーに強い評論誌「ユリイカ」(青土社)が「女オタクの現在――推しとわたし」という特集を組んだのは2020年9月号。決定的なのは、同じ20年9月に刊行された宇佐見りんさんの小説『推し、燃ゆ』(河出書房新社)が、今年1月に芥川賞に輝いたことだろう。
オタク用語だったはずの「推し」は、一躍メジャーな言葉になった。
だが、推しとは何なのか。そのニュアンスを的確に説明できる人は、どれだけいるのだろうか。例えば、「推し」と「萌もえ」の違いを聞かれても、私はうまく答えられない。違うことは何となくわかる。けれど、スッキリ納得できる説明に、なかなかお目にかかることができない。
●嘘はとびきりの愛なんだよ?
さて、今回このコラムが「押す」のは、『【推しの子】』という作品。「週刊ヤングジャンプ」で2020年から始まった、異色の芸能界マンガである。
16歳の星野アイは、アイドルグループ「B小町」の絶対的センター。地方都市の病院に勤める産婦人科医ゴローの推しだった。東京から遠く離れたゴローの病院に、変装したアイ本人とマネジャーが現れる。アイが双子を妊娠していることをゴローは知る。
ゴローがアイ推しになったのは、かつて担当していた患者の少女・さりなが、同い年のアイの熱烈なファンだったからだ。重病のさりなは、アイドルになることを夢見ながら、12歳で亡くなった。
アイは決して父親を明かさなかったが、妊娠を心から喜んでいた。子どもを産んでも公表せず、母になることも、アイドルであることも捨てないとゴローに宣言する。
<アイドルは偶像だよ? 嘘うそという魔法で輝く生き物 嘘はとびきりの愛なんだよ?>
<母としての幸せと アイドルとしての幸せ 普通は片方かもしれないけど どっちもほしい 星野アイは欲張りなんだ>
その笑顔と覚悟に打たれたゴローは、安全に子どもを産ませることをアイに約束する。
<だって 君はどうしようもないほどアイドルで 僕はどうしようもないほど君の奴隷ファンだ>
だが、アイの出産直前、ゴローはアイのストーカーに殺されてしまう。目覚めると、彼は赤ん坊になっていた。傍らには双子の妹がいる。二人のママは、星野アイ……。
●ゆるいコメディーかと思いきや……
推しの子として生まれ変わる。それは、推す側の究極のファンタジーなのか。
宇佐見さんの『推し、燃ゆ』にも印象的なシーンが出てくる。<あたし>が推す男性アイドルの上野真幸がファンを殴って炎上し、芸能界引退を表明。その殴った相手と結婚するらしいといううわさが流れた時、このようなつぶやきがSNSに流れる。
<オタク、いまから死ねば真幸くんの子どもに生まれ変われるくないか 来世で会おう>
それを、ぬけぬけとやってしまったのが『【推しの子】』なのだ。ゴローは前世の記憶を持ったまま、星野アイの息子・愛久愛海あくあまりん(愛称アクア)に転生する。実は、妹の瑠美衣るびい(愛称ルビー)は、さりなの生まれ変わりなのだが、アクアはそれに気づいていない。
あまりの荒唐無稽さに、ゆるいコメディーなのかと思っていたら、さらに衝撃の展開があって驚く。ティーンに成長したきょうだいが、ある目的を持って芸能界に入るところから、ようやく本編がスタートする。この引きの強さ、お見事というしかない。
●異才マンガ家コンビの「ただならぬ化学反応」
赤坂アカさんは、同じ「ヤングジャンプ」で、ヒット作『かぐや様は告こくらせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』(集英社、既刊21巻)を連載中の人気マンガ家。本作では、原作にあたるネーム(セリフ、構図、コマ割りなどの設計図)を担当しているようだ。
(以下リンク先で。その後有料記事あり)