ねとらぼ:http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1709/15/news106.html

漫画背景を販売するサイト「漫画家本舗」がネットで注目を集めています。
山口県の刑務所「社会復帰促進センター」の受刑者の更生作業として描かせた背景が販売されており、サイト自体は4月に公開されたものですが9月初頭にSNSで一気に拡散されました。

販売されている絵は、車、バイク、部屋の風景、建物の外観、ビル群といった漫画の背景に使用されるもの。
救急車の内装や、ビルの造形など、いずれも細部まで描き込まれているのが分かります。
漫画家の育成ではなく、あくまで更生作業の一環として行っているという作画作業ですが、SNSではその完成度の高さから「受刑者になれば絵がうまくなるの?」といった声も挙がるほど。

絵の指導を行っているのは、24歳で週刊少年マガジンの新人賞を受賞してから35年以上漫画に携わってきたという美祢友善塾代表の渋谷巧さん(漫画家としてのペンネームは「苑場凌」)。
なぜ刑務所で絵の指導を行うようになったのか、受刑者はどのように緻密な絵が描けるようになったのかなど、渋谷さんに詳しい話を聞いてみました。

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▲救急車の車内を描いた緻密な絵(漫画家本舗より):https://mangakahonpo.thebase.in/

以下インタビュー内容
―― なぜ刑務所で絵を教えることになったのでしょうか。

渋谷巧: 知人がセンターでチラシ・パンフレット等の制作をしていたので、最初は見学で入りました。
そこでPhotoshopやIllustratorのソフトを使い、簡単なイラストを描いていたので、漫画背景もできるのではないかと思い描いてみてもらったのですが、出来上がった絵は驚くほど雑で、途中で投げだしたようなものばかりでした。
“この姿勢がこれまでの彼らのものなら、物事に対して、集中し、丁寧に、飽きず、投げ出さす、最後までやりきることをしてこなかったのではないか”と思い、物事をやり遂げることを知ってもらうために漫画の背景、精密な線画が良いのではないかと思い、指導を始めました。

そして、ある程度描けるようになったら使う人の立場になってどうすれば作家が使いやすいかを相手の立場になり考えてくださいと指導し、最後には頑張って書き上げた絵に対してしっかり認めて評価し、最終的には受刑者が描いた背景画を漫画作品に使用することもあります。
漫画世代の彼らは自分の絵が使われた本を見て、喜んでいました。


―― 「受刑者の描いた絵のレベルが高い」と話題になっていますが、画力を上げるためにどのような指導を行ったのでしょうか。

渋谷巧: 「1本の線に集中し丁寧に描く、引き初めも終わりもきちんと描く、その積み重ねです」「線は光が当たるとこ、そうでないところ、下など影になるところなど3〜4種類の太さで描いてください。
意識して飛ばした線と雑に描いて飛んだ線は別物ですよ」最初に指導することはそんなところです。
後は根気よく描きつづけてもらうのが大事です。

ちょっとくらい絵心がなくても、人工物、建物や車など定規を使って描くものはできるものです。
難しいのはフリーハンドで描く木や岩など自然物、さらには形の無い炎や水などで、これはセンスが必要です。
こういうところが描けるセンター生が現れたら、この世界(イラストレーターの世界)を薦めるかもしれませんね。

―― 素人目からするとやはり“描いている受刑者はもともと絵心があったのでは?”と感じてしまいます。
実際その点はいかがでしたか?

渋谷巧: 絵心がある人が集まったわけではありません。
彼らが描いている種類の絵は、丁寧に集中力を切らさなければ出来上がるものです。
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=1385074821612163&;set=a.172461872873470.34614.100003289753124&type=3
美祢社会復帰促進センターのセンター生に
背景線画を指導して3年以上経った。
彼らのレベルは想像以上にあがった

彼らに漫画の背景を描かすことに... もっと見る(https://www.facebook.com/takumi.shibuya.9/posts/1385074878278824

―― 出来上がった絵の完成度を見ると、受刑者の方々の学ぶ姿勢かなり真剣だったのではないかと感じています。当初とくらべて受刑者の態度の変化などはあったのでしょうか。

渋谷巧: 指導をはじめて絵がうまくなるにつれ、質問の回数が増え、質問内容も的確なものになってきました。指導開始時期と一番変わったと感じるのは彼らの目の輝きですね。


つづきます