Nintendo Switchが好調なスタートを切ったが、スマートフォンゲームには勢いがない。

[産経新聞]2017年5月24日

 任天堂の新型ゲーム機「Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)」が好調なスタートを切った。3月の発売直後から品薄が続く人気で、同社は平成30年3月期に9年ぶりの増収に転じる見込みだ。一方、新たな事業の柱とすべく昨秋、本格展開を始めたスマートフォン向けアプリには勢いがみられない。主力事業は活況に沸くが、新たな収益モデルの確立という課題は依然残っている。

ビジネスの流れ変える

 「良いスタートを切れた。正直ほっとしている」。4月27日、任天堂の君島達己社長は、29年3月期決算についての記者会見の席上、スイッチの好調に安堵の表情を浮かべた。

 スイッチの世界販売台数は、3月3日の発売から1カ月で274万台。予定の200万台を大きく上回った。

 君島社長は「今期(30年3月期)はスイッチの立ち上げでビジネスの流れを変え、販売1千万台を目指す」と意気込む。そうなれば、前機種「WiiU(ウィー・ユー)」の販売不振、業績低迷という悪夢から抜け出せる。

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 だがスイッチとは別に「ビジネスの流れ」を変えると期待していたスマホ向けアプリは、高い話題性の割に収益効果は乏しい。29年3月期の連結売上高4890億円のうち、スマホアプリ関連は200億円未満。前期のほぼゼロからは増えたものの、柱の事業とするには物足りない。

読み違い

 スマホアプリの収益構造は、ゲーム機を販売する事業と大きく異なる。利用者は無料で入手(ダウンロード)でき、ゲームの進み具合に応じて料金を支払う。ダウンロード数と収益は必ずしも連動しない。どの段階で、いくらの料金を設定するかがビジネスの肝だ。

 スマホアプリは、浮き沈みが激しい世界で、任天堂はまだ新参者。新たな手法で利用者の反応を探っている段階といえる。

 例えば「スーパーマリオラン」はダウンロード無料で、あるレベルから先に進めるには1200円が必要になる仕組み。スマホアプリとしては高いが支払いは1回だけで、小刻みに課金する多くのゲームとは異なる。

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 現在、累計1億5千万程度のダウンロード数があるとみられる。ただ、当初の目標ほど収益にはつなげられていないようだ。任天堂は当初、利用者の2桁%以上が課金に応じると見込んでいたが「残念ながら届いていない」(君島社長)。

 一方「ファイアーエムブレム」では、ゲーム内で有料アイテムを購入しながら進める一般的な方式を採用。任天堂によると、ダウンロード数はスーパーマリオランの10分の1にも満たないが、売上高はファイアーエムブレムの方が上だという。

スマホに可能性

 任天堂がスマホアプリ事業に期待をかけるのは、ハードとソフトを販売する従来のゲーム機事業よりも大きな利益をあげる可能性を秘めているためだ。

 ゲーム機とソフト販売は日本、米国、欧州の3エリアがほとんどを占めるが、スマホは新興国を含め世界中に普及しており、アプリの市場は格段に広い。実際、スーパーマリオランは約150の国・地域で配信している。

 任天堂は、年2、3本のペースでアプリを配信し、事業拡大を目指す。まだ勢いに乗っていないが、エース経済研究所の安田秀樹アナリストは「市場が成熟すれば、マリオ、ゼルダなどの人気キャラクターを持っている任天堂は固定ファンが多いため有利になる」と分析する。スマホ分野での成功も、やはり、いかに任天堂らしさを打ち出せるかにかかっている。

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1705/24/news064.html