産経抄 10月9日

 全国の繁華街でしのぎを削っている居酒屋チェーンは近年、逆風にさらされている。人手不足による人件費の高騰や原材料コストの上昇、若者の酒離れによる客数の減少である。追い打ちをかけたのが、コロナ禍だった。

 ▼農林水産省が打ち出した飲食店への支援策「Go To イート」にかける期待は大きかったはずだ。その一つは、客がグルメサイトで予約して食事をすると、昼食で500円分、夕食で千円分のポイントをもらえる仕組みである。今月スタートしたばかりというのに、早くも不備が見つかった。

 ▼標的となったのは、全品327円(税込み)均一が売り物の焼き鳥チェーン「鳥貴族」である。客は原価率が高い焼き鳥だけでなく、酎ハイや野菜、漬物などを注文するから、トータルとして利益を確保できる。外食ジャーナリストの中村芳平さんによると、「マージン・ミックス」と呼ばれる戦略で成功してきた(『居酒屋チェーン戦国史』)。

 ▼ところが、1品だけ注文して、千円分のポイントを得る方法が、SNSで紹介されるようになった。しかも何度予約しても、現状では不正とならない。グルメサイトへの手数料ばかりかさむ。店としてはたまらない。

 ▼鳥貴族では、ポイントの付与をコース料理に限定すると発表した。それにしても、単純な手口をなぜ予想できなかったのか。制度を設計した霞が関の官僚は、居酒屋チェーンには無縁のようだ。

 ▼うなぎ屋の近くに引っ越してきた男は毎日、かば焼きの匂いでごはんを食べている。うなぎ屋の主人が代金を払えといってくると、チャリン、チャリンと銭の音を聞かせただけで追い返す。落語に出てくるケチな男の機転と違って、なんとも後味の悪い「錬金術」である。