産経抄 10月8日

 朝日新聞の1面コラム天声人語は昨日、初代福岡藩主、黒田長政が開いた「異見会」を紹介していた。長政は、家臣からいくら耳に痛いことを言われても腹を立てない、と誓っていた。

 ▼それに比べて、と言わんばかりに、菅義偉首相への批判が展開される。もちろん、日本学術会議が推薦した新人会員候補の一部について、任命を見送った一件である。ではわが国の科学者を代表する機関とされる学術会議は、耳の痛いことを聞く組織なのか。

 ▼北海道大学名誉教授の奈良林直(ただし)さんは、国家基本問題研究所のホームページへの投稿のなかで、その強権ぶりを明らかにしている。北大は平成28年度、防衛省の安全保障技術研究推進制度に応募した。採択されたのは、微細な泡で船の航行の抵抗を減らす研究である。

 ▼船舶の燃費が10%低減される画期的なものだった。ところが学術会議は「軍事研究」と決めつけた。幹部が北大学長室に押しかけて、研究を辞退させた。同じような実例がいくつもあるのではないか。まさに、学問の自由に対する圧殺である。

 ▼学術会議は、昭和25年に「軍事研究を行わない」と宣言した。GHQの占領下ではいざ知らず、現在では時代遅れの声明を「継承」したのは3年前である。北朝鮮が弾道ミサイルを相次いで発射している最中だった。何より理解できないのは、日本の安全保障に関する研究をタブー視しながら、軍事力の増強を急ピッチに進める中国との共同研究を容認する姿勢である。

 ▼奈良林さんによれば、そんな学術会議に批判的な研究者も少なくない。今回の騒動をきっかけに、大いに異見を募りたいものだ。もちろん、年間10億5千万円の国費が投入されている、組織の民営化や解体を含めてである。