「しまった! うっかり池に斧を!……わっ」
「あなたが落としたのは、この金の斧ですかそれともこの銀の斧ですか」
「……あんた、池の中にいたんだよな」
「そうですが」
「斧が落ちたの、わかったんだよな」
「いかにも」
「で、金でも銀でもなかったっていうことに気付かなかったわけか?」
「え。いや、あの」
「はい、この指は何本でちゅかー?」
「さ、三本」
「見えてまちゅねー」
「うっ」
「まあいいや。俺の落としたのは金でも銀でもなく、鉄の斧ですよ」
「あ、あなたは、ええと正直者です。ご褒美にこの」
「ちょい待ち。『正直者』ってことは、やっぱり最初からわかってたんだな」
「えー…蒸し返すんだ…」
「んで、こいつ欲深いかどうか試しちゃおー、なんて思い上がってたわけだ」
「そうじゃないです」
「うっかり俺が『金の斧です』とでも答えたら、罰とやらで拾得物横領しようと思ったわけね」
「違い…ます…うっ」
「それってさ、楽しいのか?」
「うっ。ぐすっ」
「楽しいのかって訊いてんの」
「あたしそんな、そんなつもりじゃ……ぐす。ぐすっ……」

「…やがてその涙は池から川に、川から海になって、だからこそ海の水はあんなにしょっぱいんだよ。めでたしめでたし。はいおやすみ」
「パパきらい」
「なんで?」