2021.11.10

〈住人プロフィール〉
会社員・26歳(女性)
賃貸マンション・1R・日比谷線 東銀座駅(中央区)
入居7カ月・築年数49年・ひとり暮らし

    ◇
『私たちの住むマンシオンには台所設備はない。火気厳禁、水道はユニットバスのみ、給湯が壊れていて湯は出ない。私の部屋はミニ冷蔵庫と電子レンジだけ。
だが、ちょっと変わった台所がひとつある。数階上のFさんの住むカプセルだ。みなから「F亭」と呼ばれている。彼女の部屋も火気厳禁、水道は洗面台のみ。けれども、電気鍋とホットプレートで何でも作ってしまう。
手料理が恋しくなったらFさんにリクエストして、カプセル住民たちにスケジュールを聞く。何人か集まれる日があったらF亭の開店日となる。
もつカレー、ぎょうざ、素麺(そうめん)、パスタ、たこ焼き、いろんなものを作ってもらった。参加費は無料。みんな思い思いの貢ぎ物をもってF亭に集まる。
全く一般的な台所ではありませんが、見にきませんか?』
 カプセル、マンシオン。気になるワードは、住所を見て納得。中央区銀座8丁目、中銀(なかぎん)カプセルタワービル。黒川紀章が設計した、四角いレゴブロックを1個ずつ積み上げたような、あの個性的なカプセル型集合住宅だった。
 調べると、建て替え話は約30年前から持ち上がり、紆余(うよ)曲折を経て今春、所有者らの決議で敷地売却が決まった。取材に応募するということは、まだ住民の具体的な退去日は決定していないらしい。
 1972年竣工(しゅんこう)、メタボリズム建築の代表作。テレビ、ベッド、机や音響機材が備え付けられた部屋は「カプセル」といい、様々な雑誌に取り上げられてきた。
 しかし、黒川が茶室をイメージしたというわずか10平米のあのマンションに、どんな台所が?
 興奮と同時に、楽しげな“F亭”をつづる行間から、なんともいえない寂寥(せきりょう)感がにじみ、住んでいない私でさえ、あの超前衛的な歴史的建築物がもうすぐなくなるという事実に無念さがこみあげてきた。
 約束の訪問日は10月23日。
 ところがその5日前、メールの主から知らせが届いた。
『突然ですが、一部住人たちの退去が10/31になりました。
もともと取り壊しが迫る建物ではありましたが、急なお知らせとなりました。
最終日までみんないつも通り過ごす予定なので、キッチン用品もまだまだあります。念のためお知らせいたしました』
「ベッドまわりはすごく便利。とくにコンセントは助かります」。設計当時は世になかったスマホの充電に、重宝されていた




1、2カ月の予定が……
     ===== 後略 =====
全文は下記URLで
https://www.asahi.com/and/article/20211110/411142187/