紳士服大手の青山商事(福山市王子町)と市は合同で、今春高校を卒業する市内在住者のスーツ購入費を助成するクーポン券の発行を始めた。新型コロナウイルス禍で進学や就職などさまざまな困難に直面した若者の門出を応援しようという趣旨。ただ一部からは、1社だけを対象に公金を支出することに疑問の声も上がっている。

 クーポン券は、洋服の青山福山本店(同所)など同社が展開する市内3店舗で利用できる。スーツやネクタイなど合計2万5千円以上の購入に対し、2万円分を補助する。補助額の2分の1ずつを同社と市で負担し、市は4400万円を事業費に上げている。

 事業は、市と同社が2018年3月に結んだ若者の活躍を応援する連携協定に基づいて企画。昨年末に青山商事からスーツで若者を支援したいなどと呼び掛けがあったという。

 市ホームページ内の専用フォームから申し込むと、メールでクーポン券が返信される。将来的な地元への就職の参考にしてもらうため市内の企業情報も送られてくる。申請は3月21日まで。クーポンの利用は同28日まで。

 一方で市民からは、賛否両論が市へ寄せられている。「若者を応援する良いアイデア」とする声もあるが、「街の小さな店舗も援助してあげてほしい」といった意見も。

 市産業振興課は「コロナ禍に直面した高校生の門出を祝うとともに、メールで企業情報も紹介し、若年層の人口流出を防ぐのも目的」と説明するが、市内の飲食店経営男性(49)は「1社のみを対象に公金を使うのはおかしい。スーツを安くしたら人口流出を防げるというのはこじつけ」と話す。

 広島大法学部の茂木康俊准教授(地方自治論)は「他に事業への参加を希望する同業の店や会社はなかったのか。公金を使うには公平性が求められ、今回はプロセスに違和感がある」と指摘。同課は「今後、他の企業が新たな取り組みを提案してくれれば可能な限り連携したい」としている。
(2021年02月09日 18時22分 更新)

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