舞台あいさつの後、ファンとの記念撮影に応じる塚本晋也監督(右から2人目)=広島県尾道市東御所町のシネマ尾道で2018年8月5日、渕脇直樹撮影
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 尾道市唯一の映画館「シネマ尾道」(河本清順支配人)が18日、開館10周年を迎えた。小津安二郎監督の「東京物語」(1953年)が撮影され、大林宣彦監督を生んだ「映画のまち」でありながら2001年に映画館が消滅。市内外の映画ファンの後押しで08年に誕生したこのミニシアターは、約1400本の良質の作品を上映し、約13万人が訪れた。【渕脇直樹】

「文化人育て送り出す」

 河本さんが映画館復活へ動き出したのは04年だった。同好の士と全国のミニシアターを視察し、「地方都市でも経営できる」と確信。「尾道に映画館をつくる会」を結成して資金を募り、約2700万円が集まった。08年10月18日、NPO法人が運営する全国でも珍しい映画館として開館。尾道では7年ぶりとなる映画「ぐるりのこと。」(橋口亮輔監督)を上映した。

 作品選びのポリシーは「多様性」。古今東西の芸術作品だけでなく、戦争や過疎、部落差別などメッセージ色の強い作品も積極的に取り上げた。多くの観客動員は見込めなくても、自分の目で確かめ「ぜひ見てほしい」と思った作品を選択。今年9月に上映した「菊とギロチン」(瀬々敬久監督)は大正時代に「国賊」とされた若者を主人公とする作品だが、生きづらさの増す今こそ見られるべき作品だと紹介した。

 開館から8年間は赤字が続き、フィルムからデジタルへの上映方式切り替えでは莫大(ばくだい)な経費を要して閉館の危機に瀕(ひん)した。しかし、地元を中心に熱心な映画ファンは着実に増え、「シネマ尾道友の会」会員は230人を数える。運営を支える20人のボランティアには岡山県から手弁当で通う人もいる。

 20年続くミニシアター「シネ・ヌーヴォ」(大阪市)の景山理(さとし)代表(63)は「地方都市で10年続けることは大変なこと。一人一人のお客さんを大事にしてきたからだろう。今後、地方の映画館は今以上に必要とされる。頑張ってほしい」とエールを送る。河本さんは「映画は総合芸術。演出だけでなく俳優、美術、音楽など、多くの文化人をここで育て、送り出していきたい」と意気込んでいる。

 開館10周年を記念した記念企画も開催される。

 <第1弾>「止められるか、俺たちを」監督とキャスト舞台あいさつ 21日午後12時10分からの上映後、白石和彌監督、出演した福山市出身の毎熊克哉さん、井浦新さんが登壇。映画は2012年に死去した若松孝二監督と仲間たちの若き日の姿を当時の社会状況を絡めて描く。本上映は20日〜11月16日。

 <第2弾>「寝ても覚めても」監督舞台あいさつ 11月24日午後1時半からの上映後、濱口竜介監督がトーク。本上映は10月27日〜11月30日。

 入場料はいずれも一般1800円。サイン会もある。問い合わせはシネマ尾道(省略)。

毎日新聞 2018年10月19日 地方版
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