国交省のビデオ「荒川氾濫」より
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「日本ほど災害の多い国はありません。その経験と情報は、子孫に必ず伝え残さなければいけない。地名はそうしたメッセージそのものです」

 そう力説するのは『地名でわかる水害大国・日本』(祥伝社新書)などの著書がある地名研究家の楠原佑介氏だ。

「東京の落合は神田川と妙正寺川の合流点ですが、1999年には西落合で、集中豪雨によって男性が地下室で溺死する事故も起きています。目黒川も、もとは氾濫を繰り返して蛇行する危ない川です」

 国交省の「重ねるハザードマップ」で「明治期の低湿地」の目黒川を確認すると、確かに蛇行しており、周囲に低湿地が広がっていたことがわかる。

「大阪の梅田などは『梅=埋め』で、埋め立てた土地を示します。このような例は有名ですが、ほかにも当て字を使う地名は多く、解読は難しいものです。しかし、各地に共通の地名、地形の特徴、過去の災害を拾い上げ、重ね合わせていくことで浮かび上がってくるものがあります」

 東京都狛江市は、ドラマ『岸辺のアルバム』で有名な1974年の多摩川決壊現場である。地名の由来は「高麗の人が住む入り江」説が狛江市のHPにも掲載されているが、楠原氏は別の説をとる。

「コマは回る、曲流するという意味。当時の浸水箇所を古地図で確認すると、戦後に宅地開発される前は、多摩川の網目状流路の真ん中でした」

 戦後の宅地開発や市町村合併などにより、かつての地名は急速に消滅しつつある。

「本来の地名を『イメージが悪い』と安易に変えてしまうのはなんとも愚かなことです。地名は、ここには住んではいけない、こんな災害がある、という先祖からのメッセージです。名前を変えても『水は低きに流れる』という真理は変わりません。災害は必ずそこにやってくるのです」

 日本の地名の多くは災害に関連するものだということを、心に刻んでおきたい。

【地名と災害の関連性】

●落合(東京都新宿区)・川口(埼玉県川口市) →水が落ち合う合流地点

●目黒川(東京都目黒区) →めぐる(曲流・蛇行)川

●狛江(東京都狛江市) →回転・曲流する川

●掛(さいたま市)・垳(埼玉県八潮市) →堤防決壊

●越生(おごせ、埼玉県) →驕る瀬、水流が奔騰して溢れる地

●押切(茨城県取手市ほか)・荒越(名古屋市) →堤防決壊

●猪之越(名古屋市) →井(川)を越す。越水地点

●難波(大阪市) →傾き、水が溢れる地

●灘(兵庫県神戸市) →ナ(土地を表わす古語)+タレ(垂れる)

●六甲山(兵庫県) →武庫山、ムケ(剝け)山

●阿武山(広島市) →アブない山

●八木(広島市) →焼き畑地。土壌崩壊が多い

●緑井(広島市)→水泥井(みどろい)川。土砂災害との関連

SmartFLASH 2018.09.17
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