就労移行支援事業所「オルタナ」での講演で、自作の歌を披露する中村敏さん=熊本市北区
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 同じ障害や病気を持つ仲間の支援活動に取り組む「ピアサポーター」。統合失調症を抱える中村敏さん(49)=熊本市=は、精神障害者のピアサポーターとして活動する一人だ。現在、病院や大学などで講演しながら自らの経験を伝え、当事者の社会復帰を支えている。

 中村さんが統合失調症を発症したのは県内の自動車会社に勤務していた23歳の時。上司のパワハラや仕事のストレス、人間関係がうまくいかなくなり、幻聴や錯視、被害妄想の症状が出始めたという。以来、30代半ばまで入退院と転職を繰り返してきた。

 「当時は病気を隠して就職活動をした。就職しても、うまくコミュニケーションができず仕事は長続きしなかった」と苦しかった日々を振り返る。

 約10年前、入院先の病院でピアサポーターと出会った。同じ当事者として具体的な悩みや思いを語り合うことができ、初めて自分の苦しみを理解してもらえた気がした。「自分も挑戦したい」と5年前に熊本市が開く講習を受け、ピアサポーターに登録した。

 もう一つ取り組んだのが、精神疾患の発症のメカニズムや対処法などを探る「当事者研究」。中村さんは母親に暴言を吐いたり、思い立ったら夜中でも病院に電話をかけたりする症状があった。どうして他人への迷惑行為を取るのかを分析し、自分なりの「SOS」だったと気付いた。迷惑行為を重ねることで、自分を取り巻く環境が悪化していたことにも気付いた。

 「自分の状況を認識できたことで、迷惑行為を抑制しようという意識が働くようになった。結婚して子どもを持った時、暴言を吐いていた母親に申し訳ないという感情も芽生え、和解することができた」と語る。

 8月上旬、熊本市北区の就労移行支援事業所「オルタナ」での講演で同じ苦しみを抱える当事者に訴えた。

 「障害者差別解消法があっても、精神障害者への差別は根強くある。傷つくことを言われても自分を恥じないでほしい。精神障害を恥ずかしいと解釈している自分の意識を変えることが大事だ」

 熊本市では2012年にピアサポーター事業をスタート。18年度は14人が登録されている。同市こころの健康センターは「精神障害者との関わりは病院の専門スタッフでも行き詰まることがある。社会復帰の過程で患者のしんどいところが分かるピアサポーターの果たす役割は大きい。ピアサポーター側もやりがいを感じて活動しており、自身の回復にもつながっている」と話している。

 現在は入院患者を退院につなげるため、病院に出向き、患者と対話をしたり、外出に付き添ったりするなど「地域移行支援」にも取り組む中村さん。ただ、ピアサポーターの活動を受け入れてくれる病院はまだ少ないという。

 「精神障害を経験し、苦い感情を味わったからこそ気づけることや共感できることがある。その瞬間、孤独だった当事者が一人ではなくなる」と、その意義を強調する中村さん。「もっと多くの病院に活動を認めてもらい、社会に精神障害について正しい理解が広がってほしい」(文化生活部・西島宏美)

熊本日日新聞 9月17日 10:05
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