400年以上の歴史があるとされる東京・中央区の「佃島(つくだじま)の盆踊(ぼんおどり)」が、「江戸の華」といわれるケンカが原因で窮地に陥っている。東京都の無形民俗文化財に指定された東京の夏の風物詩ともいえ、今年は7月13〜15日に開かれる予定だ。しかし、長年運営してきた団体と、地元住民が新たに設立した団体が主催権を巡って溝が深まっており、それぞれの日程で2度の盆踊りが開催される可能性も出てきた。両団体から公園の会場使用許可申請書を提出された区側も困惑している。

佃島 運営団体と地元住民が対立 開催道筋見えず
 東京・銀座にほど近い佃地区は16世紀末、徳川家康によって呼び寄せられた摂津国佃村(現・大阪市)などから移住した漁師たちが切り開いたとされ、「佃煮」の発祥の地としても全国的に有名。区などの史料によると、盆踊りは漁師たちが摂津国から持ち込んだのが起源という。

 ちょうちんの明かりに照らされながら、やぐらの周りをゆったりと同じ所作を繰り返しながら練り歩く−−。こうした昔ながらの踊りを残してきたことが評価され、都は1976年に無形民俗文化財に指定した。毎年期間中は多くの老若男女が集まりにぎわう。昨年は東京地下鉄(東京メトロ)の構内に張られるポスターで、沿線の「夏の風物詩」として取り上げられたほどだ。

 来月の盆踊りの「主催者」として名乗りを上げているのは、約40年間祭りを主催してきた「佃島盆踊保存会(保存会)」と、開催地・佃1丁目の住民有志による「歴史と伝統を守る佃島盆踊りの会(盆踊りの会)」。保存会側が「これまで手伝ってもこなかったのに、いきなり乗っ取ろうとしている」と主張すれば、盆踊りの会側は「保存会の代表は身勝手な行動を続けている」と真っ向から反論。互いに「共同開催は難しい」といい、現段階で和解の道筋は見えていない。

昨年は中止求める仮処分申請も……地元行政も困惑
 対立の理由について、盆踊りの会側は、保存会の代表が佃1丁目の住人ではなく、隣接する同区月島の住民であることを指摘したうえで、「住民でもない人間によって、400年以上の伝統を誇る盆踊りがゆがめられ、踊りの形も変わってしまった。開催地区の住民を盆踊りに全く関与させない姿勢は異常だ」と訴える。

 一方の保存会側は「それまで各地域でばらばらにやってきた盆踊りを76年に統一し、伝統を守りながら、適切な運営に腐心してきた。盆踊りの会側はこれまで協力してこなかったのに、突然、自分たちで運営するといっても無理がある」と過去の実績を強調し、仮に主催できない場合は、8月に改めて開催することも視野に入れているという。

 昨年の盆踊り前も騒動があった。地元住民の有志が直前になって、東京地裁に保存会による盆踊りの中止を求める仮処分申請を東京地裁に申し立てた。警視庁月島署も両者の対立を理由に、開催当日の午前まで道路の使用許可を出さなかった。結果的に住民側が仮処分申請を取り下げたこともあり、何ごともなかったように保存会の主催で催された。

 しかし、問題の根は深く、保存会に不満を持つ住民たちは昨年11月、盆踊りの会を設立。あくまで保存会に対抗する構えで、準備を進めてきた。

 祭りの日程まで残すところ1カ月、両者ともに会場の公園使用許可申請を区役所に既に提出している。所管する水とみどりの課は「地域が主体となる行事であり、こちらでどちらかに優劣をつけるわけにはいかない。区としては両者に話し合いの場を提供したい」と対応に苦慮している。

 そもそも盆踊りは誰でも輪に加わることができる伝統行事である。地元住民はもちろん、多くの観光客らが事態の推移を注目している。



毎日新聞2018年6月9日 10時30分
https://mainichi.jp/articles/20180609/k00/00m/040/016000c