防衛省が、人工衛星の活用を妨げる宇宙ごみ(スペースデブリ)や衛星破壊兵器を監視する専用の地上レーダーを開発することが16日、分かった。レーダーを運用する専門部隊を航空自衛隊に新設することに向け、準備要員の配置も始めた。北朝鮮の弾道ミサイル警戒など人工衛星は安全保障上の重要性が高まっており、防衛省・自衛隊として独自に宇宙監視に取り組むことが不可欠と判断した。

 宇宙監視レーダーはシステム設計の最終段階で、防衛省は今月末に締め切られる平成30年度予算案概算要求にレーダーの整備費を盛り込みたい考えだ。35年度からの運用を目指す。

 防衛省が宇宙監視レーダーの開発・運用に乗り出すのは宇宙ごみが増加しているためだ。各国の人工衛星の打ち上げが増え、活用を終えた衛星やロケット部品が地球を周回する宇宙ごみも増加し続け、その数は1億個以上と指摘される。

 19年に衛星破壊実験で約3千個の宇宙ごみを発生させた中国は衛星破壊兵器の開発を進めており、攻撃される恐れも強まっている。

 一方、日本の安全保障上、衛星の活用は欠かせず、北朝鮮のミサイルを監視する情報収集衛星が代表的。自衛隊の部隊運用で重要となる指揮・統制は通信衛星に支えられ、衛星利用測位システム(GPS)もミサイルの精密誘導に使われている。

 1センチ程度の宇宙ごみが衝突しただけで衛星の機能は失われるとされ、情報収集と自衛隊の運用・装備に壊滅的な被害が生じる。そのため宇宙ごみや衛星破壊を狙う不審な物体の接近を監視し、衛星に衝突する危険性があれば軌道を変更して回避させなければならない。

 防衛省は当初、弾道ミサイル探知用の空自の地上レーダー「FPS−5」の能力を向上させることを検討したが、高度3万6千キロの静止軌道帯の宇宙ごみを監視するには専用レーダーを開発する必要があると結論づけた。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が先行してレーダーと光学望遠鏡の観測データを基に宇宙監視を行っており、防衛省は情報を共有する方針。

 ■中国を警戒、専門部隊で日米連携

 防衛省が宇宙監視で専門部隊の発足に踏み出す。宇宙ごみと人工衛星との衝突を防止するだけでなく、中国のミサイルなどの衛星破壊兵器を念頭に攻撃を抑止することも主眼に置く。宇宙監視は防衛力整備の基本指針「防衛計画の大綱」や日米両国の連携強化で新たな柱と位置づけられる。

 政府は平成25年に策定した防衛大綱を来年改定することを検討している。安倍晋三首相は今月6日、大綱改定で見直すべき分野について「宇宙、サイバーといった新たな防衛も検討課題になる」と明言した。

 現大綱は初めて宇宙空間に関する項目を設け、自衛隊が重視すべき能力として宇宙監視による人工衛星の防御能力向上を特記。新大綱ではこの方針の具体化が求められ、新型レーダーを導入した常続的な監視態勢はその第1弾となる。

 27年改定の「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」も宇宙の項目を初めて盛り込み、宇宙監視での協力強化を明記。それに沿い、防衛省は航空自衛隊が運用する新型レーダーとJAXAが保有する観測データを一元化した上で、宇宙ごみや衛星破壊兵器に関する情報を米軍と共有することを視野に入れる。

 米軍は中国が衛星破壊兵器の開発を進めていることに神経をとがらせている。衛星による偵察やGPSを駆使する精密誘導兵器は米軍の強みだが、「破壊兵器の攻撃で衛星の機能が失われれば作戦能力も著しく低下する」(自衛隊幹部)ことを踏まえれば弱点ともいえるからだ。

 防衛省幹部は「米軍は同盟国などの能力を総動員して宇宙監視機能を強化したい考えだ」と指摘。日本は新型レーダーの運用で主導的な役割を果たすことが期待される。

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