タクシー運転手
強盗にステーキおごり諭す 25歳男自首
毎日新聞 2017年7月13日 08時48分(最終更新 7月13日 08時48分)

タクシー内での男とのやり取りを説明する藤原和美さん=兵庫県明石市で、待鳥航志撮影
https://mainichi.jp/articles/20170713/k00/00e/040/208000c


 兵庫県姫路市で3月、タクシー運転手から金を脅し取ろうとしたとして恐喝未遂罪に問われた無職の男(25)の判決が14日、神戸地裁姫路支部で言い渡される。タクシー内で男は被害者の藤原和美さん(66)=同県明石市=から恐喝をやめるよう諭され、食事もごちそうになるうちに藤原さんの人情に心を打たれ、改心して自首していた。藤原さんは「これからが大事。強い心で社会復帰してほしい」と願っている。【原田悠自、待鳥航志】

 藤原さんは3月19日未明、姫路市の路上に車を止め、明石市から乗せた男に運賃約1万4000円を請求した。だが男は突然、髪をつかんで刃物のようなものを突き付け、「金を出せ」と脅してきた。藤原さんは「こんなことするな」と一喝。「悪いことをしているのが分かるか」と諭すと、興奮していた男は徐々に落ち着きを取り戻し、観念して身の上を話し始めた。

 男は刑務所を出た後、入所していた姫路市内の更生保護施設を抜け出していた。故郷の宮城県に帰る金がなく、事件に及んでいた。事件時の所持金は数十円だけ。藤原さんは近くのレストランで男にチキンステーキなどを食べさせた。「すみませんでした」と頭を下げる男。店を出て別れたが、警察には通報しなかった。男の境遇を知り、「可哀そうだ」と思った。男はその約12時間後、市内の交番に自首した。

 5月の初公判で男は事件について「記憶にない」と起訴内容を否認したが、その後の公判で「刑務所に行きたくなくてうそをついた」と罪を認めた。

 男は2011年の東日本大震災を経験し、交際相手を亡くしたという。被告人質問で「簡単に命が失われてしまうなら、その場しのぎで生きてもいいと考えるようになった。自分の生き方を変えた」と事件を起こした動機を述べ、藤原さんに「一からやり直した姿を見てもらいたい」と更生を誓った。検察側の求刑は懲役1年6月。藤原さんは「どんな判決も受け入れ、誠実に生き抜いてほしい」と見守っている。