名越 健郎20分前
 ロシアのプーチン大統領がテレビの生放送で国民からの質問に直接答える恒例の「国民対話」が6月15日に行われた。約260万件の質問が寄せられ、大統領は4時間にわたって、答え続けた。

 例えば「水害で壁に穴が空き、天井が崩れそうになったのに、国から支援金をもらえない」と窮状を訴えるスタブロポリ地方の女性には、「これはおかしい。被災者救援資金は政府から振り込んである。私と同名の知事に聞きたい。ウラジーミル、カネはどこへ行った?」。

 南部・クラスノダール地方の道路はガタガタ、と直訴した学生には、「確かに、地方の道路事情は目に余る。予算を住民の生活改善に宛てないのは地方当局の責任だ」。

 さながら悪代官を退治する将軍さまという趣だが、実際に、地方当局の責任者たちにとっては毎年、戦々恐々とするイベントだ。彼らは、この対話を受けて、直ちに問題に対処するのが通例である。

 ローカルな問題に最高指導者が直接対処するのは、“国民思いの大統領”を演出する狙いがある。ロシア人は腐敗した地元幹部を信用せず、最高指導者に直訴する傾向があり、「対話」はプーチン大統領が高い支持率を維持する原動力となっている。

 話題は国内ばかりではない。「ロシアゲート」疑惑について問われた際には、「ロシアが米大統領選に介入したという証拠はない。いつものアメリカによるプロパガンダだ」と一蹴。


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73の質問に答えたプーチン大統領 ©SPUTNIK/時事通信フォト


「騙されたことはあるか?」という質問には、騙されたときは、相手の動機や望みを考えると語り、こう続けた。

「そして私は騙されたことを忘れない」

 また「近くのごみ処理場で毎日火災が起き、呼吸困難になり、吐き気がする」と訴えるモスクワ郊外の住民に対しては、「そこも含めてリサイクル工場を建設する決定が下された。日立が提供してくれる最新の日本の技術が使用される」と日本による支援に言及する一幕もあった。

「対話の質問はすべてやらせでは」との問いには、「そんなことはない」と反論したが、このイベントには他人の窮状をテレビで知った国民が、相対的に満足感を得る仕掛けの意図も込められている。


source : 週刊文春 2017年6月29日号
http://bunshun.jp/articles/-/3008