物価に関連して年金額を抑える仕組みに伴い、将来受け取る基礎年金水準が減る問題で、田村憲久厚生労働相は10日、給付水準が目減りしすぎないようにする制度改革の検討を始めたことを明らかにした。受給者の不安を和らげるねらい。財源の確保も必要で、新たに保険料を増やさずに厚生年金の保険料の一部を回す案などが想定されるが、議論に時間を要しそうだ。

公的年金は将来に備え、月々の保険料が一定以上には上がらないようにする代わり、物価が上昇してもその上昇率ほどには給付が増えないようにして年金額を抑える仕組み(マクロ経済スライド)が導入されている。

 この仕組みでは、自営業の人らが加入する国民年金を含むすべての年金受給者が受け取れる基礎年金と、会社員らが加入する厚生年金のうちの報酬比例部分で、別々に調整する。代表的な経済ケースを元にした現時点の見通しでは、報酬比例部分は2025年度に終わるが、基礎年金は46年度まで続き、その分だけ給付水準が下がる。

 基礎年金は所得にかかわらず一定額がもらえる。基礎年金の水準が目減りすると、所得の低い人の年金水準が低下して、生活に苦しむ高齢者が増えてしまう可能性がある。

 この日の閣議後会見で田村氏は、報酬比例部分と基礎年金のマクロ経済スライドの終了時期を一致させる方向で厚労省内に検討を指示したと説明。「(制度改革を)ぜひとも実現させていきたい」と述べた。25年度の制度改正も視野に検討が進む見通しだ。

同省が昨年12月に示した試算では、時期を33年度に一致させると目減り幅が縮小する。実現には基礎年金の財源を手厚くすることも必要で、今も財源に含まれる厚生年金の保険料の一部を融通することなどが想定されている。

 年金の水準は、モデル世帯の所得代替率で表される。平均的な収入で40年働いた会社員と専業主婦の夫婦が65歳で受け取り始めるときの世帯年金額が、そのときの現役世代の平均的な手取り月収の何%になるかを示す。

 所得代替率は19年度の場合に61・7%。代表的な試算パターンの場合、現時点での予測では46年度に51・0%となるが、マクロ経済スライドの期限を33年度に統一すると55・6%にまで改善するという。
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