【シリコンバレー=白岩ひおな】米アマゾン・ドット・コムの創業者ジェフ・ベゾス氏は26日、米航空宇宙局(NASA)に対し月面着陸船の開発費用として最大で20億ドル(約2200億円)を負担すると表明した。NASAは4月に米テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)率いるスペースXへの製造委託を発表済みだが、コストを抑えた提案でNASAからの受注獲得の機会を得る狙いがあるとみられる。

ベゾス氏がNASAのビル・ネルソン長官に宛てた公開書簡で明らかにした。月周回軌道と月面を行き来する着陸船は、NASAが2024年にも月面に宇宙飛行士2人を送る有人探査計画「アルテミス計画」で使われる。

ベゾス氏は自身が設立した宇宙開発ベンチャーの米ブルーオリジンが、米政府の2021会計年度(20年10月〜21年9月)と22会計年度(21年10月〜22年9月)でNASAからの開発費の支払いを放棄する提案を示した。2年間で最大20億ドルを同社が肩代わりする。地球低軌道への試験機ミッションも自費で実施するという。同社は20日にテキサス州でベゾス氏らを乗せた自社開発の宇宙船による初の有人飛行にも成功した。

当初、月面着陸船の製造にはブルーオリジン、スペースX、米アラバマ州を拠点とする防衛企業のダイネティクスが名乗りを上げ、NASAは20年に3社と10カ月間の研究開発のための契約を結んだ。このうち2社が選定される見込みだったが、4月にNASAは予算の制約や安全性を理由に契約額28億9000万ドルでスペースX1社への製造委託を発表した。

ブルーオリジンとダイネティクスは競争の機会が与えられなかったとして米政府監査院(GAO)に抗議し、契約は中断された。GAOが8月4日までに裁定を下す予定だ。ベゾス氏はスペースXのみが選定されたのは同社に入札価格を修正する機会が与えられたためで、自社にはなかったと主張する。「単一の受注企業へのアプローチではなく、NASAは本来の戦略である競争を受け入れるべきだ」とし、入札の再考を求めた。
2021年7月27日 6:53 (2021年7月27日 7:34更新)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN26DDV0W1A720C2000000/