株式市場が荒れている。21日は日経平均株価が一時1100円強急落し、2万8000円の節目を下回る場面があった。新型コロナウイルス対策で世界の中央銀行がばらまいたおカネの回収が始まるのでは、という懸念を背景に世界の金融市場に動揺が走った。コロナ後の上げ相場しか知らない新人投資家のなかには驚いた人もいるだろう。だが、慌てることはない。マーケットとはこういうもの。1000円下がる日もあれば1000円上がる日もある。つみたてNISA(積み立て型の少額投資非課税制度)やiDeCo(イデコ、個人型確定拠出年金)など非課税の器を使ってコツコツ長期投資の航海に出た人であれば特に、今してはいけない行動はただ一つ。慌てて売却することだ。

□慌てて売るべきでない理由@〜個人には決算期がない
大きな下落を目の当たりにすると「大損した」と思いがちだが、それは「含み損」でしかない。元値と現値の差は単なる机上の数字。今すぐ対処しなくてはならない損失ではないはずだ。そこに四半期ごとに運用成績を査定されるプロの投資家との大きな違いがある。

こういう局面でいわゆる「売りが売りを呼ぶ」展開になるのは、人のお金を預かっているプロが損失を最少化するために売らざるを得ないから。投資期間を自由に決められる個人投資家であればその特権を生かすためにも、反対売買の期限のあるようなレバレッジ取引からは適切な距離を置いておこう。そうすれば売却しない限り損失は確定しないし、待てば海路の日和はある。明けない夜はない。

□慌てて売るべきでない理由A〜下げは積み立て投資の養分
とはいえ、バブル崩壊後の日本株の長期低迷を見るにつけこんな反論もあるだろう。「30年かかってようやく以前の水準を回復したばかりじゃないか」「30年も待てない」「高値で投資していたらまだ3割も含み損がある水準だし」……。

確かに。高値で一括で投資した場合はその通り。だが、長期投資の心強いお供「積み立て」で投資をしている場合はかなり様相が異なる。つみたてNISAやiDeCo以外に会社員の人の確定拠出年金(DC)もそうだし、100円から可能な投資信託の購入なども積み立て型の一例だ。値動きのある金融商品に対し、毎月など一定の間隔を設定して決まった額で買い続ける「ドルコスト平均法」なら下げ局面は貴重な養分だ。

価格が下がれば買える量が多くなる。1000円の予算でリンゴを仕入れる時、1個100円なら10個しか買えないが、翌月同じリンゴが半額に下がれば20個買える。翌々月は逆に500円に値上がりすれば2個しか買えない。3カ月合計では投下資本3000円に対し手にしたリンゴは32個で単価は94円弱。1個100円に比べ仕入れコストは引き下げられている。簡単な算数だが、積み立て投資とは自動的にこの「コスト引き下げ効果」を発揮してくれる装置なのだ。

□バブルの最高値で投資していても積み立てなら利益
日経平均の値動きで検証できる。出発点はその年の年末にバブル最高値を付けた1989年。以来390カ月、毎月1万円を投じると仮定するので元本は390万円。これを一括投資していれば2万8000円割れの水準では当然3割近い損失になる。ところが積み立て投資の場合、下げ局面で増やした購入量の増加がモノを言う。今でも評価額は700万円以上と大幅な含み益を持つ計算だ。このメカニズムに納得がいけば、時折訪れる荒れ相場は貴重な仕入れ機会と思えるはず。今売るのはその機会損失だ。

一方、アタマでは納得しても、荒れる相場のさなかで投資を始めるのは怖い、ちょっと落ち着いてからにしよう、そう思うかもしれない。だがあまり意味はない。何せ長期積み立て投資の場合、10年なら120分の1、20年なら240分の1のインパクトしかない。いくらで投資を始めるか、「始値」にはあまり意味はない。

>>2 へ続く

2021年6月22日 2:00
日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB214600R20C21A6000000/