コロナ禍でかつてなく「格差」の問題がクローズアップされている。テレワークできる人、できない人。高給取りのブルシット・ワーカーと社会を支えるエッセンシャル・ワーカー。健康に不安をもつ人や高齢者と、感染を気にしない若年層。ワクチンが潤沢に行き渡る国とそうでない国――。

 分断と対立を生み出す構造の奥には、何があるのか。宮台真司、白井聡、斎藤幸平の三氏が徹底討議する。

斎藤 この1月に国際慈善団体のオックスファムが発表した調査は衝撃的でした。マイクロソフト創業者のビル・ゲイツやテスラ創業者のイーロン・マスクら世界の富豪トップ10人が、コロナ禍のこの1年で、保有株の価格上昇などによって計56兆6000億円もの利益を得た。これは、全人類76億人に必要なコロナワクチンをすべて賄える金額だそうです。

 白井 そのオックスファムの別の調査によれば、'16年時点では「世界のトップ62人の富豪が、人類の下位半数の資産総額と同じだけの富を占有している」状態でしたが、'19年には富豪の数が「26人」に減った。この数年で、金持ちはますます金持ちになっているわけです。

 斎藤 日本国内に目を向けても、1億円以上の資産をもつ富裕層は昨年末に132万世帯を超え、史上最多となりました。しかしその一方、庶民の賃金はどんどん低下しています。先日発表されたOECD(経済協力開発機構)の最新データでは、コロナ前の'19年時点で、日本人の平均賃金はアメリカやドイツはおろか韓国をも下回ったことが判明し、ネットでは動揺する人も多かった。日本人の間の格差も、年々広がっていると言えます。

 宮台 これほど「格差が問題だ」と言われて久しいのに、なぜ解決しないのか。前提として知っておかなければいけないのは、これまで私たちが依拠してきた資本主義の仕組みそのものが、たまたま上手く回っていたに過ぎないということです。

 '14年に日本でもブームを起こしたフランスの経済学者トマ・ピケティが指摘したように、資本主義では本来「投資で得られる利益」のほうが「労働で得られる利益」を上回ります。つまりカネ持ちは資本を運用すれば働かずとも生きていけるけど、労働者は働いてもさして豊かになれず、格差はどんどん拡大します。

 しかし戦後30年ほどの間、日本も含めて世界各国で「真面目に働けば、一般の労働者も豊かになれる」という幻想が広まりました。大規模な内需が支える製造業が分厚い中産階級を形成し、安定した社会を作れたからです。今や世界中で製造業が地盤沈下し、幻想が崩れました。格差拡大は、資本主義の誤作動ではなく、正常な作動の結果なのです。
https://news.yahoo.co.jp/articles/9720eab963658225d00550899edb0bf23dc54346