日本航空グループの社員が2月から、高い接客のスキルを生かせる職場として、トヨタ自動車の高級車ブランド「レクサス」の販売店や高級ホテルのヒルトンに出向している。日航は新型コロナウイルスの影響で業績が悪化し、グループ全体3万5600人のうち1日当たり最大1000人を自治体、物流やコールセンター、教育機関、家電販売などグループ外の企業に出向させている。日航は新しい二つの出向先について「同じように世界中のお客様にサービスを提供する企業として、相互に学び、切磋琢磨(せっさたくま)する関係を築きたい」と説明している。

「おめでとうございます」。千葉市花見川区の販売店「レクサス幕張」で新車の納車セレモニーが開かれ、冨谷沙絵さん(25)らスタッフ約10人が拍手をして祝った。顧客が運転して駐車場から出ていく際には、一列に並び、深々とお辞儀をして見送った。

 日航グループの地上旅客係員として成田空港で働いていた冨谷さんは、レクサス幕張の販売店で顧客を出迎え、飲み物を出し、電話応対をする。冨谷さんは「スタッフが細かな所作までこだわりを持って働く姿に感銘を受けた。車についての知識を深め、お客様に寄り添えるおもてなしをしたい」と語る。

 入社して3年。「日本の良さを伝え、お客様にすてきな思い出が残るようお手伝いしたい」と、国際線のチェックインカウンターなどで働いた。感染拡大の影響で業務量が大幅に減り、空港での勤務は月に10日と半分になった。旅客が消えていく姿を目の当たりにし、「こんなに変わるのかと、ぐっと心にくるものがあった。この先、また仕事ができるようになるのだろうか」と不安を感じた。上司から出向の打診を受け、「自分の成長につなげたい」と快諾した。

 千葉トヨタ自動車が「接客や接遇に優れている人材を派遣してほしい」と日航側に働きかけ、地上旅客係員3人を県内のレクサス3店舗で受け入れた。全国のレクサス販売店のスタッフは2005年の開業を前に「最高のおもてなしをする航空会社を目標にしよう」と日航などで接客の研修を受けた。千葉トヨタの豊田好夫副社長は「開業時にお世話になった。ぜひ来てほしかった」と語る。レクサス幕張の稲毛輝政ゼネラルマネジャーは冨谷さんを「のみ込みが早く、レベルが高い。心温まるおもてなしは同じで、刺激を受けている」と高く評価している。

 冨谷さんが顧客に日航グループから出向していると自己紹介すると「空港は今どういう状況なの」「頑張っているね」と声を掛けられる。冨谷さんは「励ましてもらえてうれしい。立ち止まっている場合ではない。ここで頑張って、経験を空港で働く仲間に伝えたい」と前を向く。旅客でにぎわっていたころの空港のターミナルの光景が脳裏をよぎり、「空港ってすてき」との思いは強い。空港での勤務を見据え、「コミュニケーションのスキルを磨きたい。レクサスのスタッフは和の心を大切にしていて、日本航空にも通じるものがあり、美しさを表現できるようになりたい」と話した。

 成田市のホテル「ヒルトン成田」の直営レストランで、日航の地上旅客係員5人がスタッフとして7月まで働いている。客席に料理を運び、食べ終わった食器を下げ、感染防止対策のためテーブルを入念に消毒する。ルームサービスで食事を届けることもある。外国人の利用客も多く、英語での案内は欠かせない。空港のラウンジ(特別待合室)で勤務していた斎藤光さん(22)は「ホテルのスタッフがホスピタリティーを大切にし、フレンドリーに接する姿勢を学びたい」と意欲をみせる。

 ホテルは受け入れるにあたり「高いサービスのレベルが求められる」と、ヒルトンのブランドについて説明し、基本動作の訓練をした。ヒルトン成田の林直樹・料飲サービス統括支配人は「あいさつや身だしなみ、言葉遣いは私たちのほうが勉強になり、語学力も高い」と話している。
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