「早く来てもらいたいと今も声を掛けている」

 NTTの渋谷直樹副社長がこう語るのは、国内通信機器大手の富士通のことだ。NECとの資本業務提携の交渉が本格化した2020年春以降、NTTは富士通にもたびたび「連携のあり方を模索したい」と秋波を送っている。

 次世代通信インフラ技術の研究開発やグローバル展開に向け、通信事業者とベンダーの垣根を越えた「新メード・イン・ジャパン」体制で世界に乗り出すNTTとNEC。主にNTTが先端技術の研究開発、NECが製品の生産体制や販売網の構築などを担うが、世界の通信機器市場を牛耳る北欧のエリクソンやノキア、中国華為技術(ファーウェイ)への挑戦は大きな賭けだ。同志と言える有力メーカーの参画が、勝率を高める鍵を握っている。

NECなどと並び、主要な電話交換機メーカーとして「電電ファミリー」を構成していた富士通。モバイル通信が花開いた1990年代以降もNTTグループと歩調を合わせて通信機器や携帯電話端末を販売してきた。携帯電話基地局などの世界市場では後れを取ったが、内外の大手通信事業者に販売する「光伝送装置」のビジネスでは今もなお存在感を保つ。富士通がNTT・NEC連合に合流すれば大きな援軍になる。

葛藤を繰り返してきたNECと富士通
 そればかりではない。長年にわたってNECと富士通の間で浮かんでは消えてきた「幻の事業統合」も現実味を帯び始める。

 NECと富士通が通信事業を統合して新会社を設立する――。この10年ほど、業界でまことしやかにささやかれてきた噂だ。もちろん両社は公式に認めていないが、富士通の元幹部はこう証言する。「十数年前、両社の幹部でにわかに事業統合の動きが立ち上がった。すぐ立ち消えになったが」

 国産技術を復権させたい政府やNTTの思惑もあり、NECと富士通の技術や人材を集約させようという水面下の動きは「常に誰かが考えてはいた」(富士通の元幹部)。さまざまなビジネス領域でしのぎを削る両社はそうした連携に後ろ向きとされるが、NEC社内からは「相通ずる部分が一番多い相手だ。富士通の光伝送事業ならいつでも欲しい」(幹部)との声も聞こえてくる。一方、富士通からも「通信事業は富士通だけでは今後厳しいのは自明だ」との指摘がある。

 互いに競争関係を貫くのか連携するのか――。これまで葛藤を繰り返してきた両社が距離を縮めるうえでは、NTTを軸とする今回の「新メード・イン・ジャパン」が格好の「渡りに船」となる。

 ただし富士通は現状、表向き静観の構えを見せる。ある富士通幹部は「NTTと一緒にやっていくのは間違いないが、あくまでビジネスライクな関係だ」と冷めた見方を示す。NTTの秋波に対して富士通の中で慎重論があるとみられるからだ。富士通のある幹部が重い口を開く。「本当に世界での勝算があるのかどうか。今後の事業戦略を検討するにはいろいろと見極めなければいけない」
以下ソース
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01483/120700004/