米ニューヨーク市は4日、新型コロナウイルスの感染再拡大を防ぐため、区域を絞った「限定封鎖」に乗り出すと表明した。規制の区域を絞るのは外食産業などサービス消費の回復が鈍い中で、全市レベルの封鎖は経済や生活への打撃が大きいためだ。感染防止と経済再開のバランスに苦心している。

検査の陽性率が1週間平均で基準値の3%を超えた高い区域を郵便番号で指定し規制をかける。学校閉鎖や、病院や食品スーパーなどを除く営業停止に再び踏み切る。ブルックリンやクイーンズの一部地区が対象となる。ニューヨーク州のクオモ知事の承認を得たうえで、7日から実施する。

全米最大のニューヨーク市は3〜4月に爆発的に感染者が増え、深刻な危機を経験した。ニューヨーク・タイムズによると、累計で25万人が感染し、2万4千人近くが死亡した。

3月下旬から厳しい経済封鎖を続け、感染者数は減少に向かった。6月以降、段階的に経済を再開させる中でも感染者数の増加を抑えてきたが、9月中旬から一部の地区で感染者が再び増え始めた。

広い範囲で都市封鎖を実施すれば、外食や小売りなどの経済の打撃が大きく、倒産や失業が急増するおそれがある。国民生活への負担も大きい。今回、陽性率の低い中心部マンハッタンは規制の対象から外すなど経済への影響も配慮した。

ニューヨーク市は9月30日にレストランの店内飲食を制限付きで解禁したばかりだ。10月以降は急速に気温が下がるため、店外での飲食や持ち帰りだけでは十分な売り上げが見込めない。

「再び規制がかかると家賃を払う余裕すらなくなる」。マンハッタンでレストランを経営する男性は苦境を訴える。ニューヨークのレストラン業界によると、状況次第で来年1月までに3分の2の店舗が倒産するという。

全米レベルでみてもサービス消費の回復は鈍い。米ハーバード大などが運営するオポチュニティー・インサイツは全米のクレジットカードの利用状況を日次で集計している。9月の外食・ホテルの支出は1月と比べ3割弱少ない。交通や娯楽はおよそ半減している。生活必需品や自動車の消費は回復しているが、サービス業界は厳しい状況が続く。

COVIDトラッキングプロジェクトによると米国の新規感染の判明者数(7日移動平均)は直近で4万3千人程度。ピークの7月下旬(6万6千人程度)より少ないものの9月半ばから増加傾向にある。

米雇用統計によれば9月時点の雇用者数は2月末と比べ、依然として1000万人強も少ない。外食や宿泊、娯楽などの失業問題は深刻だ。失業期間が長引くと、再就職の機会が狭まる恐れがある。経済だけでなく、治安の悪化など国民生活も脅かしかねない。

フロリダ州ではレストランの店内飲食を大幅に緩和するなど自治体によって対応も分かれている。大統領選まで1カ月を切る中で、各自治体は難しい判断を迫られる。

欧州では、スペイン、フランス、英国などが感染再拡大に見舞われており、商店や飲食店の営業規制などの動きが相次ぐ。スペインの首都マドリードでは全域での移動制限が再導入された。
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