【ニューヨーク=宮本岳則、ロンドン=篠崎健太】新型コロナウイルスのまん延が、欧米大手銀の収益を直撃している。6日までに出そろった2020年1〜3月期決算で大幅減益や赤字計上が相次いだ。融資の回収可能性を厳しく見積もり、貸倒引当金を積み増したためだ。危機対応融資が急増し、自己資本比率は低下した。各行は08年のリーマン危機後の金融規制対応で財務を強化しており、ショック吸収力が試されている。

イタリアの金融大手ウニクレディトが6日発表した20年1〜3月期決算は最終損益が27億ユーロ(約3120億円)の赤字となり、前四半期から赤字額が拡大した。貸倒引当金繰入額として12億ユーロを計上したことが響いた。「都市封鎖の広がりで、マクロシナリオを見直した」(ジャンピエール・ムスティエ最高経営責任者=CEO)。仏クレディ・アグリコルも前年同期比で約3倍の引当金を繰り入れ、純利益は2割減となった。

米銀大手も世界景気が落ち込む前提で貸倒引当金を大幅に積み増した。シティグループのマイケル・コルバットCEOは4〜6月期の経済見通しについて「失業率は10〜15%まで高まり、国内総生産(GDP)は年率で2〜4割減るだろう」と述べ、事業環境の先行きを厳しくみていることを明らかにした。大手6行引当金繰入額は1〜3月期の合計で2010年以来の大きさに膨らみ、各行とも軒並み2ケタ減益となった。

厳しい環境にもかかわらず各銀行は企業への融資を増やしている。JPモルガン・チェースは1〜3月期の企業向けの貸出残高が前四半期に比べて15%増となった。企業が手元資金の確保に動き、与信枠からマネーを引き出したからだ。クレディ・スイスでもコロナ対応の融資が増えた。政府から自国企業の資金繰り支援を求められており、追加融資に応じざるを得ない。

貸し出しが増えたことで欧米大手銀の自己資本比率は低下が目立った。ドイツ銀行は普通株などでつくる「狭義の中核的自己資本(CET1)比率」が3月末時点で12.8%となり、19年12月末比で0.8ポイント下がった。顧客が与信枠から資金を引き出したことで、自己資本比率を計算する上での分母にあたる「リスクアセット」が増えた影響が大きい。米銀大手6行もCET1比率が軒並み低下した。

市場は欧米銀全体が苦境に陥り、金融システム不安を引き起こす事態は想定していない。リーマン危機や欧州債務危機の後、リスク資産の圧縮などを通じて資本を積み上げてきたからだ。

国際決済銀行(BIS)によると欧州大手銀の「中核的自己資本比率」は19年上期時点の平均で13.7%、米銀平均は12.3%となり、11年時点に比べて約2倍に拡大している。今回のコロナショックでも、自社株買いの停止などで資本流出を抑えている。HSBCのノエル・クインCEOは「資本と流動性は強固で顧客の需要に対応できる」と強調した。

貸出資産の質の悪化が顕在化するのはこれからだ。欧米銀は現在、一時的な返済猶予を認めるなどして不良債権化を抑え込んでいる。猶予期間を終えても融資先の業績が回復していない場合、不良債権処理コストが一気に膨らみかねない。中銀の金融緩和で貸出金利が下がり、銀行の稼ぐ力も落ちている。コロナの影響が長引けば、増資を迫られる銀行が出てきそうだ。

2020/5/7 4:11 (2020/5/7 7:52更新)
日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58796650X00C20A5000000/