日本銀行の黒田東彦総裁は27日、追加金融緩和を決めた金融政策決定会合後に会見し、世界的に新型コロナウイルスの感染拡大が続く現状に強い危機感を表明し、特に企業の資金繰りが厳しさを増す中、企業金融の円滑化と金融市場の安定が日銀の最優先課題との見解を示した。金融政策対応も危機的状況を踏まえて「できることは何でもやる」とし、財政拡大路線にかじを切った政府との協調と適切なイールドカーブの実現のため、「国債はいくらでも買い入れる」と語った。

総裁は感染拡大が続く現在の日本経済について「危機的な状況」と強い警戒感を示した。特に緊急事態宣言の発動などで経済活動が一段と冷え込む中で、中小・零細事業者をはじめとした企業の資金繰り対応の重要性を指摘。会合で一段と増額したコマーシャルペーパー(CP)・社債の買い入れや、企業金融支援措置の拡充などで「感染拡大のめどがつくまで」は企業金融の円滑化や金融市場の安定など金融面から日本経済を支えていく考えを表明した。

こうした状況の下で、緊急経済対策などで日本経済の底割れ回避に取り組む政府との連携は「ある意味で当然であり、現在の局面では特に重要だ」とし、「財政政策と金融政策の相乗効果も当然、期待している」と述べた。もっとも、会合で決めた国債買い入れの「80兆円めど」の撤廃と、さらなる積極的な買い入れ方針は、適切なイールドカーブの形成のための「あくまで金融政策運営の必要性の観点で実施した」と説明、「財政ファイナンスではない」と明言した。

先行きの長期金利が低下していく展開は「想定し難い」との見方を示す一方、ゼロ%程度の長期金利目標の下で「長期金利が若干のマイナスになっても、どうこうするつもりはない」と語った。

各国中銀より大きい
その上で総裁は、「感染拡大収束まで世界的に経済活動が抑制された状況が続く」とし、収束後の経済の改善も「不確実性が大きい」と指摘。先行きの金融政策運営について「必要があれば躊躇(ちゅうちょ)なく追加緩和を行う」ことに改めて言及するとともに、手段としてマイナス金利の深掘りも「選択肢から排除しない」と語った。さらに、日銀の金融緩和度合いは経済規模などを踏まえて「各国中銀並みか、さらに大きい」と強調した。

会合では、政策金利のフォワードガイダンス(指針)について、2%の物価安定目標に向けたモメンタム(勢い)の文言を削除し、関連を切り離した。総裁はモメンタムは「いったん損なわれた状態」との認識を示し、政策指針をモメンタムと関連付けることで「期間が不明瞭になる」と説明。「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」では、新たに示した2022年度の消費者物価見通しが1%程度にとどまったことを挙げ、物価2%は「見通し期間を越えて相応の時間がかかる」との見解を示した。

それでも、現在も2%の物価安定目標を「目指していることは変わらない。物価安定は使命だ」と言明。日本経済が再びデフレに陥るとは思っていないとしながらも、新型コロナの感染拡大の収束が不透明であることや、足元の原油価格の急落などを踏まえて「十分に注意する必要がある」と警戒感を示した。

日銀は同日の会合で、新型コロナの世界的な感染拡大によって日本経済に大きな下押し圧力がかかる中、前回の3月会合に続く追加の金融緩和を決定。国債買い入れについて「年間約80兆円」の保有残高増のめどを撤廃してたほか、CPと社債の購入額を増額。新型コロナ対応金融支援特別オペの拡充も決めた。

マイナス0.1%の短期の政策金利とゼロ%程度としている長期金利の誘導目標は維持。指数連動型上場投資信託(ETF)と不動産投資信託(J−REIT)の買い入れ額も、それぞれ年間約12兆円、同約1800億円の上限を据え置いた。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-01-21/Q4DZ03DWLU6E01