世界鉄鋼協会が28日までに発表した2019年の世界粗鋼生産量は、前年比3.4%増の18億6990万トンと3年連続で過去最高だった。米中貿易戦争の長期化で世界の鋼材需要が鈍化する一方、中国は景気刺激策を背景に生産を拡大した。足元では新型肺炎も背景に中国は景気の鈍化懸念がある。過剰な生産能力を抱えた中国で需要が減れば、世界の鋼材市況が一段と悪化しかねない。

中国の粗鋼生産量は8.3%増の9億9634万トン。4年連続で前年を上回り、過去最高を更新した。世界市場に占める中国の比率は約53%と前年(約51%)をさらに超えた。現状のペースで増産が続けば20年には世界で初めて生産量が10億トンを超える可能性がある。

一方、中国をのぞく主要国は米中貿易戦争の長期化の影響を受けている。日本は4.8%減の9928万トンと、10年ぶりに1億トンを割り込んだ。自動車など主力の製造業向けの需要が世界で低迷したためだ。国別では中国、インドに続き2年連続で世界3位だった。

自動車向けなどが低迷した欧州(欧州連合=EU=28カ国)も4.9%減の1億5943万トンと2年連続のマイナスとなった。米国は1.5%増の8792万トン。3年連続の増加だが伸び率は前年(6.2%増)を下回った。18年はトランプ政権が発動した輸入関税で米国内の鋼材価格が上昇し、鉄鋼大手による増産が続いたが、息切れ感が出ている。

中国の粗鋼生産量は過去10年で約2倍に増えた。16年以降、国際社会の圧力も背景に過剰な生産能力の削減を進めたが、足元では新設備への投資を増やしている。東南アジアなど周辺国でも中国の鉄鋼大手による製鉄設備の増強計画が進む。

各国が警戒を強めるのが、中国の景気が後退し、市況悪化のリスクが増すことだ。中国で余った鉄が安値で周辺国に輸出されれば、市況を撹乱(かくらん)させる可能性はぬぐえない。新型肺炎も景気にマイナス影響となる。

中国はこれまで景気上昇局面で生産能力の拡大を進めてきたが「需要が減った結果、能力が過剰になるのは中国にとって初めてのことだ」(日本製鉄の橋本英二社長)

日米欧など20カ国・地域(G20)主要国は鉄鋼の過剰生産問題を国際会合で議論してきた。中国が反対し、19年に会合は廃止されたが、中国が参加しない形でも継続することを決めた。中国は最大手の宝武鋼鉄集団を中心に企業再編が進む。1社で1億トンの生産量を抱える企業が誕生すれば市場への影響力は一段と増す。膨張する「紅い鉄鋼」がもたらすリスクはかつて以上に増している。

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2020/1/28 14:43
日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54931090Y0A120C2X93000/