LINE、ZOZO、アスクル……ソフトバンクグループの孫正義会長は、国内大手ネット企業の買収を次々と成功させてきた。だが、企業買収ばかりを繰り返す手法は「虚業ではないか」とも批判される。実態はどうか。経済評論家の加谷珪一が解説する――。

ソフトバンクグループが、急ピッチで国内ネット企業の買収を進めている。傘下のヤフーを中心に、ZOZO(ゾゾ)、アスクル、LINEなど有力企業を次々と取り込んできたが、特にヤフーとLINEとの経営統合がもたらす影響は大きい。ソフトバンクグループは一連の買収によって、事実上、1億人の経済圏を獲得したといってよいだろう。

これだけの規模になれば、国内ネット企業のガリバーとして、多くの利用者を囲い込める反面、買収した各事業の利益相反調整など、オペレーションは複雑になる。一部からは、市場の寡占化が進むことによって、これまで破竹の勢いだったソフトバンクグループの成長に陰りが出ることを指摘する声も出ている。

ソフトバンクグループの有力子会社でポータルサイト「ヤフー」を運営するZホールディングス(ZHD)とLINEは2019年11月18日、経営統合する方針を明らかにした。2020年10月までに、両社の親会社であるソフトバンクと韓国ネイバーが共同持株会社を設立し、この持ち株会社がZHDの株式を7割保有。傘下に事業子会社としてヤフーとLINEを並立させるスキームが検討されている。

「国民的なITサービス」どうしの統合だが……
両社は対等合併であることを強調しており、統合後のZHDのトップには、ヤフーの川邊健太郎社長とLINEの出澤剛社長が、それぞれ共同CEO(最高経営責任者)に就任することが決まっている。だがヤフーの背後には、巨大なソフトバンクグループが控えているという現実を考えると、この経営統合はソフトバンクグループによるLINEの取り込みと考えた方がよいだろう。

ヤフーは6743万人の月間利用者を抱える日本最大のポータルサイトであり、同時にヤフーショッピングやヤフオクといったEC事業も展開している。一方、LINEの月間利用者は8200万人となっており、こちらも国民的なITサービスといってよい。

両社の顧客にはかなりの重複があるが、利用者数を単純に合算すれば、日本の人口を大きく上回ることになり、今回の経営統合によってソフトバンクグループはまさに1億人経済圏を獲得できる。

なぜ孫正義氏はこれほどまでに事を急ぐのか?
ここ1年、ソフトバンクグループはヤフーを通じて国内ネット企業の獲得に邁進まいしんしている。

2019年8月には子会社であるアスクルのトップを解任するなど経営関与を強化し、翌月にはファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営するゾゾの買収を決めた。そこから時間を置くことなく、今度はLINEとの経営統合を実現している。

ソフトバンクグループを支配する孫正義会長は、電光石火のM&A(合併・買収)を得意としてきたが、買収のスピード感はさらに高まっていると見てよいだろう。では、孫氏はなぜこれほどまでに事を急いでいるのだろうか。もっとも大きな理由は、孫氏が進めるネット企業への投資戦略に、とうとう成長の限界が見え始めたからである。

これまで孫氏は、成長企業に対する数多くの投資を行ってきたが、ここ数年は、10兆円の規模を持つソフトバンク・ビジョン・ファンドを立ち上げるなど、ネット企業への投資をさらに加速している。孫氏が企業買収に貪欲なのは、買収を通じて「時間」を買うためである。

ネットビジネスは従来型産業とは大きく異なり、成長に必要な限界コストが圧倒的に安く、業績が急拡大しやすい構造になっている。しかも、サービスを利用する人が増えれば増えるほど、その価値が高まるというネットワーク外部性という効果もあり、一定のシェアを超えると加速度的に利用者が増加する。

グループ総力で取り組まないと、GAFAに駆逐される
以下ソース
https://president.jp/articles/-/31266