日韓関係の冷え込みが、地域交流や観光に悪影響を及ぼしています。近年の日本旅行ブームで韓国人観光客は、大都市だけでなく地方にも訪れていました。しかし今夏以降、急に客足が遠のき、空や海の便は運休が相次いでいます。温泉や観光地からは悲痛な声が聞こえてきます。死活問題となっている地域の今を考えます。

「30年の努力が蒸発」
 週末の夜にもかかわらず、フロントに灯がともらないホテルや旅館があり、観光客がそぞろ歩いた通りもひっそりしています。10月半ばでの閉店を告げる貼り紙をし、シャッターを下ろした店もありました。

 長崎県対馬市南部の厳原(いづはら)地区。日本が韓国への輸出規制強化を打ち出した7月以降、韓国人観光客は急減しました。2社が運航していた厳原―釜山間の定期船が8月から運休し、拍車をかけました。

 厳原で旅館を経営する熊本裕臣さん(68)は「8月からずっと宿泊客はゼロ」と言います。3年ほど前から韓国の旅行会社と全館貸し切りの契約をし、観光バス1台分約40人を毎日のように泊めてきました。食事だけの客も受け入れ、昼食・夕食を100人分ずつ提供してきました。その売り上げが一気になくなり、従業員6人と話し合い、解雇せざるを得なくなりました。

 対馬は、釜山から最も近い場所で約50キロ。市によると、昨年は約41万人が釜山から来島、今年1〜6月も22万人と前年比1割増でした。ところが、7月は前年比4割減の約1万9800人、8月は同8割減の約7600人、9月は同9割減の約3千人までに減りました。韓国人客の島内消費額は昨年1年間で91億円と試算されますが、7〜9月で計約16億円の損失があったとみられます。

 市北部の比田勝地区は釜山から高速船で約1時間10分。5社が連日1〜2便ずつを定期運航していましたが、今は1日2便に。「民間主導で30年かけ、やっとここまで来たのが政治によって一瞬で蒸発した」。山田幸弘さん(56)は悔しさをにじませます。

 1989年に設立され、山田さんの父も関わった第三セクター「対馬国際ライン」は、比田勝―釜山航路を切り開きました。試行錯誤を経て、海運会社を次々に呼び込みました。韓国人客の増加に対応し、食堂や観光バスへと事業を拡大。今年は夏に向けてレンタカーを70台から100台に増やしたところでした。

 90年に4万6千人だった島民が3万人まで落ち込む中、働く場を求めて島を出る若者に就職や起業を勧められる――。そんな未来を描けるようになった矢先のことでした。

 県や市は国内旅行客の拡大をめざし、東京や大阪でのPR活動や宿泊費の割引キャンペーンを打ち出しました。しかし、釜山と比べて時間も交通費もかかる本土からどれだけの客が見込めるのか、という声も根強くあります。対馬が韓国人客の人気を集めたのは「近くて安く行ける外国」という側面があったからとみる山田さんは「やはり韓国人客に戻ってもらうしか、対馬には考えられない」と話していました。(佐々木亮)

地道な情報発信続ける
 紅葉シーズンを迎えた大分県由布市湯布院町の観光名所・金鱗湖(きんりんこ)。錦のような木々の彩りを目にした女性たちから「ワァーッ」と感嘆の声があがりました。続く会話は中国語。日本語のほかタイ語も交じります。でも、これまで多数を占めていた韓国語の会話はまばらでした。

湯布院や別府などの温泉地を抱え、「おんせん県おおいた」をキャッチフレーズにする大分。県が主な宿泊施設を対象にした調査によると、9月の韓国からの宿泊客は6026人、前年同月の3万7490人から83・9%も減りました。関係が悪化する前は外国人客の6割以上を占めていたため影響は大きく、海外客全体の数字も43・1%減になりました。

大分空港と韓国との定期便は「利用が見込めない」との理由で、8月から運休したままです。それまで、ティーウェイ航空は大分とソウル(仁川)を結ぶ便を1日1往復、釜山便、務安便を週3往復ずつ運航していました。毎年1〜3月に週3往復の定期便を運航していた大韓航空も、この冬の運航を見送りました。大分空港は国際線ターミナルを5月に拡張したばかり。韓国以外に国際路線はありません。県交通政策課の担当者は「韓国便とともに、今後は中国や台湾便の誘致にも努めなければなりません」と話します。

ただ、海外客の9倍の規模がある国内客の宿泊客数は堅調です。国内外計33万8774人で、減少幅も5・6%。そのため県観光誘致促進室の工藤哲史(のりふみ)室長(54)は「トータルでみると一喜一憂する必要はない。韓国の訪日自粛ムードに一自治体で対応するのも難しいので」と話します。
以下ソース
https://www.asahi.com/articles/ASMBZ46FRMBZUPQJ005.html