「40年前、SAKAI(堺)のダイキンだったのがSEKAI(世界)のダイキンになった」――。そう話すのは、空調機器事業で世界売上高1位というダイキン工業 の専務執行役員 グローバル戦略本部長の峯野義博氏だ。同社の2018年度の売上高は2兆4811億円で、1995年時点で16%だった海外比率は今や76%に及ぶ。「国内市場は頭打ち。海外で利益の大半を上げている」(峯野氏)。いかにして同社は「世界のダイキン」を成し遂げたのか。その実現に向けた戦略について、峯野氏が「日経 xTECH EXPO 2019」(2019年10月9〜11日、東京ビッグサイト)の基調講演で明かした。

峯野氏が同社の特徴として強調するのは、単に海外での売り上げ比率が高い点という点ではない。「日本」「欧州」「中国」「アジア・オセアニア」「米州」の世界5極のそれぞれにおいて、約3000億円規模を実現している点だ。世界5極の各極にはそれぞれ競合他社が存在するが、峯野氏によると、これらの競合他社の売上高は各社1500億〜6000億円であるという。「(ダイキンの各極1極の事業季語である)3000億円というのはこれに匹敵し、競合他社の事業規模を(ダイキンは)各極1極で実現しているということ」と同氏は説明する。「1%コストダウンすれば30億円の利益が出るといったように、規模があれば利益を上げやすく手も打てる。この体制を構築するのに20年かかった」(峯野氏)

 同社が海外を目指したのは他に選択肢がなかったためという。転機が訪れたのは1994年。当時は6割以上を占める業務用エアコンが主事業で、国内家電メーカーの攻勢に冷夏が重なって赤字となり、生き残りをかけて他社とは違う独自の発想・戦略で挑むことにした。その代表例が世界展開や「最寄り化戦略」だ。

 当時、中国に工場を設けて一極集中で原価を下げ、そこから輸出するというのが業界の定石だった。同社は中国への一極集中ではなく、「最寄り化戦略」として生産、販売、サービスの拠点を欧州などの販売地域に置く戦略を採った。5極それぞれに工場を建てて販路やサービス網を築き、いずれは部品も現地化してコスト競争力を高め、開発も現地に置いてさらなる差異化を図るというものだ。

 この最寄り化にはもちろんメリットがある。まず、現地生産により当時乱高下していた為替リスクを抑えることができ、柔軟な生産やリードタイムの短縮が実現できる。デメリットとなるのが、例えば欧州の場合は中国に比べて3〜4割高い労働コストだ。ただし欧州のエアコンに占める労働コストの割合は6〜7%であり、それほど大きなコスト増にはならない。アジアや中国から運ぶ部品は小型なので輸送コストもそれほど大きくならず、いずれ現地調達できるようになれば圧縮できるとみた。

 エアコン専業で製品はエアコンだけだからそれほど大変ではないと考え、米穀店など異業種からディーラーを集めて教育し、アジアや欧州に直売網を構築した。直売は他社との差異化のために用意した特殊な製品にも対応しやすく、代理店がないため在庫が不要で、工場から直接直売できる。こうして強固なディーラー網を築き上げ、今は約15万店に及ぶという。

 「キモは販売量を上げること。量がないと工場がつぶれる。どうやって工場(の生産予定)をいっぱいにしていくかという命題を突き付けることで、販売力を強化できた。この20年で各地の販売網は飛躍的に強くなっている。工場自身も、生産ラインの短縮やモジュラー生産に取り組むなど、少量生産でもコスト力を得られるように知恵を出してきた。今は開発部隊も現地に置き、現場の声を開発に生かしている。円高、ゼロ金利だったこともあり、20年間本業に投資し続けた結果、世界中に拠点やインフラを設けられた」(峯野氏)
以下ソース
https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/event/18/00085/101100041/