日本はバブル崩壊以降、倒産件数が空前の低水準で推移するという「無倒産」社会となっていたが、いよいよ、この状況に変化の兆しが出てきた。倒産件数の低下は、政府による人為的なものだったが、今年の3月ですべての施策が終了し、銀行はフリーハンドになった。人手不足による倒産もジワジワと増えていることを考えると、今後は企業の倒産が増加することも十分に考えられる。

東京商工リサーチがまとめた2018年の倒産件数は8235件と10年連続で前年を下回り、過去30年で3番目に低い水準となった。日本は倒産件数が異様に少ない「無倒産」社会となっているが、その直接的な原因は、2009年に導入された中小企業金融円滑化法である。

この法律は、銀行が、資金繰りが厳しくなった中小企業から返済条件の変更を求められた場合、金利の減免や返済期限の見直しに応じなければならないというものである。この法律が存在していたことで、銀行は仮に融資先の経営が苦しくなった場合でも、安易に資金を引き上げることができなかった。

同法は時限立法として成立したものであり、2013年にはその効力を失ったが、実質的に法律の拘束力は続いていたと考えてよい。その理由は、金融庁が銀行に対して法律の終了後も報告義務を課していたからである。

金融庁は同法の施行に伴い、銀行に対して「貸付条件の変更実施状況」の提出を求めてきた。これは融資先に対する貸付け条件の変更などについて、金融庁に状況を随時、報告するものであり、銀行が円滑化法の趣旨に沿った対応をしているのか監視する役割を果たしていた。

同法が終了したのちも金融庁は、引き続き任意での報告を求めており、事実上の報告義務が継続していた。銀行にとっては、法律終了と同時に、融資姿勢を変化させるという選択肢はあり得なかったので、アベノミクスが本格的にスタートした後も、非常事態を前提にした救済措置が継続していたことになる。

一方、アベノミクスで量的緩和策が実施されたことから、銀行はジャブジャブのマネーを抱えることになり、融資先の開拓に苦慮する状況となった。企業にしてみれば、いくらでもお金を借りられる状態だったので、貸し剥がしといった事態が起こらなかったのもうなずける話だ。

日本は長期間にわたって消費が低迷しており、中小企業の経営環境はむしろ悪化しているが、銀行は政府の意向によって無条件で融資を継続してくれる。先行きが不透明であるにもかかわらず、資金繰りに窮することはないという、ある種のぬるま湯状態が続いていたわけだが、この状況に終止符を打つきっかけとなったのは、皮肉にも量的緩和策がもたらした異様な低金利だった。

銀行は低金利が長期にわたって継続したことで、利ざやが稼げなくなっており、メガバンク各行の収益力は大幅に低下した。手数料収入の強化や海外進出などで収益源の多角化を図ってきたが、そろそろ限界となりつつある。メガバンクは、極めて重い人件費と店舗網の維持コストに耐えられなくなり、数万人規模のリストラ計画を表明。経営体質のスリム化に乗り出した。

地方銀行の状況はさらに厳しく、各行は規模拡大を目指して経営統合を進めている最中だ。主要行の経営統合は一段落しつつあり、今後は、統合効果を顕在化させるため、コスト削減を本格化させることになるだろう。

こうした中、今年の3月、とうとう金融庁に対する報告義務がなくなり、中小企業金融円滑化法に関するすべての施策が終了した。

円滑化法に関する施策が終了したことと、メガバンクが前代未聞の大リストラに乗り出したこと、そして、地方銀行の統合が一段落したことが、同じタイミングなのは決して偶然ではない。昭和から平成にかけて維持されてきた日本型金融システムがとうとう継続不可能となり、円滑化法の完全終了をきっかけに、金融庁がシステム全体の再編成に乗り出したとみてよい。

金融庁は統合した銀行が、金利引き上げなどの措置を実施しないよう貸出金利の監視を強化するとしているが、これも融資姿勢の変化を警戒した動きと捉えるべきだろう。人口が減少し、経済がシュリンクする日本においては、過剰となった企業がいよいよ市場から退出を迫られることになる。
以下ソース
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67115