三菱航空機(愛知県豊山町)は6日、開発中の民間旅客機「スペースジェット(旧MRJ)」について、70席級の新機種「M100」を100機受注する方向で米航空会社と協議を始めたと発表した。米国の規制に対応した小型機であることなどが評価された。一方、2020年半ばの納入をめざす90席級の初号機「M90」は6度目の納入延期の懸念が浮上しており、視界はなお晴れない。

米地域運航会社のメサ航空と受注に向けた協議を始める覚書を結んだ。6月に別の北米の会社と15機について覚書を結んで以来となる。まだ受注は確定していないが、確定すれば3年ぶりで、三菱航空機は受注に向けた動きをアピールする狙いもあるようだ。

スペースジェットの価格は現時点で1機あたり40億〜50億円を想定。すべて受注すると4000億円超の取引となる可能性がある。

「M100」は三菱航空機が苦境の打開に向けて6月のパリ航空ショーで発表した新機種だ。近く開発計画を固め、23〜24年の納入をめざす。

今回の受注につながった要因は大きく2つ。第1に最大の米国市場の規制に対応する機種であることだ。米では地域路線の席数を76席以下に制限する「スコープクローズ」と呼ぶ労使協定が存在する。08年から開発している「M90」は90席級と大きいため規制を満たしておらず、米国の開拓が難しかった。

第2に、三菱航空機の親会社である三菱重工業が6月に買収を発表したカナダ・ボンバルディアの小型機「CRJ」事業の効果だ。メサ航空はCRJの後継機としてM100を購入するもようで、三菱航空機は買収で需要を引き継ぐ構図だ。

一方、問題はいまなお事業化できていない初号機のM90だ。これまで5度の納入延期を繰り返している。現在は20年半ばの納入開始に向けて量産を始めたほか、商用運航に必要な型式証明(TC)の取得の手続きをめざしている。

だが、TC取得を左右する最終的な試験機体は当初予定していた今年6月の完成からずれ込んでいる。配線などの分野で部品の調達遅れが出たことなどが影響しているもようだ。

三菱航空機は「全体の開発計画への影響はない」という姿勢を貫いているが、「スケジュールはかなり厳しい」(幹部)との声もある。6度目の延期となった場合は三菱重工の将来の業績への影響も大きくなる。

スペースジェットは国内では全日本空輸(ANA)が最初の顧客になっているが、納入遅れを受けて代替機種の調達を余儀なくされている。今後は遅延による補償も問題になるとの見方がある。

三菱重工は三菱航空機を通じてスペースジェットに6000億円超の開発費を投じてきた。M90の受注は現時点で約400機。M100の現時点での見込み受注が上乗せされれば約500機となるが、黒字化するには「1500機ほど販売しないといけない」(三菱重工の小口正範最高財務責任者=CFO)。

久しぶりに舞い込んだ大型受注案件に安堵している暇は無さそうだ。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49496820W9A900C1TJC000/