□村嶋帰一 シティグループ証券 チーフエコノミスト
[東京 7日] - 2019年を通じて日銀は、短期政策金利、10年国債利回り目標、上場投資信託(ETF)買入れ額といった金融政策について現状を据え置くというのが弊社のメーンシナリオだ。

しかし、米中の貿易摩擦が予想外の激化と広がりを見せており、それに伴い米連邦準備理事会(FRB)が利下げに踏み切る可能性がでてきたことを受け、日銀の金融政策に関しても代替シナリオの検討が必要になっている。

結論から言えば、FRBが政策金利を50ベーシスポイント(bp)以上引き下げ、それがはっきりとした円高を引き起こせば、日銀も10bpを上回る利下げに踏み切る可能性が高い。その場合、同時に銀行収益への悪影響を軽減する措置も講じられよう。

 <予防的措置かそれ以上か>

日銀金融政策の先行きを見通す上で最も重要な鍵は、FRBによる利下げの有無と、その幅とみられる。FRBの利下げを受けて円高/ドル安がはっきりと進めば、日銀は何らかの対応策を迫られる可能性が高い。

さもないと、市場参加者は日銀が事実上、政策手段を使い果たしたとの見方をさらに強め、金融市場の動揺が強まる恐れがある。また日銀自身も、世界金融危機の際に、他の先進国中銀が緩和に動く中で、政策を据え置き、批判を招いた経験をトラウマとして抱えている可能性がある。

FRBが景気と金融環境(financial conditions)に保険をかける意味合いで25bpの予防的利下げを行う場合、日銀が本格的な緩和を行う可能性は低く、最有力の選択肢はETF買入れの増額とフォワードガイダンスの強化になるとみられる。

これは、このシナリオの下では、米国経済の底堅さは維持されている可能性が高いからである。日銀はFRBの予防的利下げと自らのETF買入れ増額後の市場動向(特に為替市場)を見極めることになろう。

一方、FRBが一度に、もしくは累計で50bpの利下げに踏み切る場合、日銀はETF買入れの増額とフォワードガイダンスの強化以上の政策措置を迫られる可能性が高い。これは、この場合、米国経済の急減速の可能性もより高まっているとみられるからである。

その場合、現在マイナス0.1%に設定されている短期政策金利の引き下げが、最も可能性の高い選択肢となろう。10年国債利回りの目標を引き下げれば、イールドカーブはさらにフラット化し、銀行収益への悪影響が強まる。このため、日銀はまずは短期政策金利の引き下げを選択するとみられる。この措置はイールドカーブのスティープ化と整合的であり、その限りでは金融機関には追い風ともなり得る。

なお、FRBが50bp以上の利下げに踏み切るとすれば、日銀は短期政策金利を少なくとも10bpを超える幅、例えば20bpもしくは25bp引き下げる可能性が高い。10bpの利下げにとどまった場合、日米金利差が大きく拡大するからである。このシナリオでは、短期政策金利はマイナス0.2%を下回る水準に低下することになる。

>>2 に続く

2019年6月7日 / 09:55
ロイター
https://jp.reuters.com/article/column-forexforum-kiichi-murashima-idJPKCN1T800M