防災シミュレーションを手がける米ワン・コンサーン(カリフォルニア州)が日本に進出した。住民分布や建物の築年数といった膨大なデータを蓄積し、地震や洪水が起きた直後に被害状況を人工知能(AI)が予測する。損害保険ジャパン日本興亜などと組み、他のアジア各国にもサービスを広げる計画だ。

ワン・コンサーンは災害時に被害を予測するクラウドソフトを提供している。地震などが起きると被害の大きさに応じて区画単位で色分けして画面上に示す。高齢者が多い地区や病院など重要施設がある場所の被害状況を素早く把握し、人員や物資の配分といった初期対応につなげられる。

■平時に災害シミュレーションが可能

「平時でも災害のシミュレーションが可能で、企業の事業継続計画(BCP)や自治体の防災計画に役立つ」。同社のアマッド・ワニ最高経営責任者(CEO)はこう強調する。米国ではロサンゼルス市やシアトル市などが採用しているという。「気候変動を背景に大規模な自然災害が増え、これまでの経験や予測手法が通用しなくなっている」(ワニCEO)

ワン・コンサーンは米スタンフォード大発のスタートアップ企業として地震工学やAIの研究者らが2015年に設立した。膨大なデータを解析するAIが強みで、震度や降水量、衛星画像などを組み合わせて各地の被害状況を瞬時に予測できる。被災地の交流サイト(SNS)の投稿といった情報をリアルタイムで分析する機能もある。

日本では損害保険ジャパン日本興亜や民間気象会社のウェザーニューズ(千葉市)と組み、国内の過去の災害や気象データを活用したシステムを開発した。3月には熊本市がシステムの実証実験を始め、9月にも正式に導入するという。米国以外の展開は初めてだ。

ワニ氏がスタンフォード大で地震工学を学んでいた時期に、出身地のカシミール地方で発生した洪水に巻き込まれた。

自身も被災した経験が起業に至る原点だ。「災害発生後の被害状況だけでは防災には不十分だ」と痛感し、AIの専門家らと災害予測や被害分析の共同研究を開始。AI開発の権威であるアンドリュー・ヌグ氏の後押しもあり、法人化した。

損保ジャパンとは保険商品と組み合わせたサービスの展開も視野に入れている。「災害予測だけでなく、保険など災害に備えられる包括的なサービスを提供したい」という。当面は米国と日本に注力する計画だが、アジア展開も模索する。バングラデシュのダッカでは世界銀行と組み、システム開発を進めている。

保険とIT(情報技術)を融合する「インシュアテック」は米国や中国が先行しているが、日本でも大手保険会社が海外のスタートアップと組む動きが広がってきた。三井住友海上火災保険などはフランスのシフトテクノロジーと組み、保険金の不正請求検知のサービスを立ち上げた。今後も日本の大手企業と海外スタートアップの連携が増えそうだ。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO43943070Z10C19A4XY0000/