自分の家を持つことは、これまで数十年間「アメリカンドリーム」だった。多くの人にとって、家の購入は大人として成功を収めたと感じられる決定的な瞬間でもある。

こうした基準が存在するせいで、私はほぼ毎週のように誰かから「家を買いたい」と告げられる。そこで私が最初に聞くのは「なぜ家を買いたいの?」という質問だ。

この質問に対し、良い答えが返ってくることはほとんどない。一定の貯蓄目標に達したことや、家を所有することが次のステップだと感じられる年齢に達したことが理由である場合が多い。たとえ住宅を購入する事が、責任ある大人の貯蓄の使い方に思えたとしても、人生最大の買い物をする理由としてはひどくお粗末だ。また、住宅購入は非常に無責任な選択であることが多い。

現実として、住宅購入の資産運用効果はかなり低い。投資回収の記録を見ると、株や債権の銘柄は、ほとんどの住宅市場における持ち家の成績を上回っている。

より良い投資方法は他にあるので、家を買うべき主な理由は生活の質の改善だ。

素晴らしいコミュニティーの中に永住場所を持つことや、子どもやペットが走り回ることのできる庭を持つことが優先事項であれば、家を購入する価値はあるかもしれない。しかし、次の3つのシナリオが当てはまる場合、家を購入することで生活が改善するどころかストレスが増えてしまう可能性が高い。

1. 持ち家貧乏になってしまう場合

住宅ローンの審査に通ったからといって、楽に支払いができるとは限らない。米連邦住宅局(FHA)のローンは3.5%の頭金しか必要としないため敷居が低いが、月々のローン支払い額は高く、プライベート住宅ローン保険(PMI)の支払いも生じる。

そうなれば、家主は“持ち家貧乏”になってしまう。毎月の住宅費にあまりに多くの金を使ってしまうため、旅行や人付き合い、さらには退職後に備えた貯蓄など、本来望んでいたことができなくなってしまう。

月々の住宅コストは、総収入の28%以下に抑えるべきだ。私は財務教育・指導を提供している立場から、顧客が住宅購入の準備を始める際には購入後の月々の家計の概算を見せている。それから顧客には1カ月間、その予算内で生活してもらい、実際の感触をつかませる。その後、今後30年間その固定された予算内で暮らしていくことに不安がないかどうかを尋ねる。

顧客はこのセッション後、頭金のための貯蓄を増やすか、最初に考えていたよりも低価格な住宅の購入を決めることが多い。

2. 転居の可能性も考慮に入れておきたい場合

少なくとも今後5年間はその家にとどまると確約できなければ、購入する前にもう一度考えた方がよい。

夢の仕事を手にする機会が回ってきた、あるいは一生を共に過ごしたいと思える人に出会ったとしよう。その仕事や相手が他の街にいるとすればどうだろう? 賃貸の場合、米国では又貸しをするか賃貸契約を解消すれば、コストを最小限に抑えてその機会をつかむことができる。

しかし持ち家の場合、自分の心に従い別の街に移ることには大きな代償が伴う。住宅を購入する場合、財務的に望んでいるのは家の価値が上昇し、財産となることだ。どちらを達成するにも、非常に長い時間がかかる場合が多い。

購入して2、3年の間に売ってしまう場合、先に支払った契約手数料がそれまでの家の価値の上昇額を上回ることが多い。また、最初の数年の住宅ローンの支払いはほぼ元金ではなく利子の支払いなので、財産の純粋価値を作り上げることはほとんどできない。

3. 緊急時の資金を持たない場合

真冬に暖房が壊れてしまったとしよう。米国では、セントラルヒーティング(集中暖房)システムの設置に6000〜1万4000ドル(約68万〜160万円)かかるため、これくらいの貯蓄を持っておくことを勧める。暖房を修理するのはあなたの責任だからだ

水道管の破裂や雨漏りなど、早めに修理しておかなかったため家の一部が深刻なダメージを受ける事態は避けたいはずだ。

家主として、少なくとも6カ月の出費をカバーできるくらいの緊急資金を持っておくべきだ。これは頭金とは別に用意する必要がある。

大半の人は、頭金に必要な額を貯めた瞬間に、家を買おうと地元の不動産業者にいそいそと向かう。しかし実際は、それよりもはるかに多くの額を貯蓄しておくべきだ。そうでなければ、修理のための予想外の出費を毎回クレジットカードの債務でカバーすることになり、家を所有することが大きなストレスになる。
https://forbesjapan.com/articles/detail/24170