前回の本コラム(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58424)で、現在国会で審議されている入管法改正の問題点として、賃金上昇しはじめているアベノミクスの成果を台無しにする可能性について指摘した。今週は、その議論をさらに深めたい。その上で、日本の入国管理の問題点を指摘したい。

なにしろ、今回の改正案は拙速な政府内検討を経て出されたシロモノだ。今年2月20日、経済財政諮問会議で検討されはじめたばかり。この種の法改正を行う場合、通常は1〜2年を掛けて検討されるが、今回の入管法は、検討されてからわずか4カ月後の6月15日に、「2018骨太方針」としてその全体像が発表された「超スピード改正案」なのである。

しかも、外国人受け入れの対策や問題点について、専門家が十分に検討した形跡がない。実務を行った外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策検討会のメンバーは官僚ばかり(http://www.moj.go.jp/content/001268548.pdf)。これでは現実に即した議論などなされるはずがなく、相当不味い。

その拙速さは、今国会審議で法務省の出したデータに誤りが見つかったことにも表れている(https://www.asahi.com/articles/ASLCJ55GRLCJUTFK00Z.html)。こういうケアレスミスが出て来ると、国会審議に大きく響いてくるので、政府としては痛いところだ。

また、今年2月にキックオフしたときに出された内閣府のペーパーは、お粗末なものだった。少子化で生産年齢人口が減少していることを「人手不足」として、それゆえに外国人労働者を受け入れなければならない、としている(http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2018/0220/shiryo_04.pdf)。

前回の本コラムでは、少子化は民主党政権下でも同じ状況だったので、少子化で人手不足は誤りだ、と指摘した。つまり、安倍政権になってから進められた異次元金融緩和によって雇用が生まれ、それ故に人手不足になったのであり、決して「少子化だから人手不足」ではないのだ。

(なお、筆者は人口減少・少子化は、日本にそれほど負の影響を与える問題ではないと考えている。興味のある人は、筆者の近著『未来年表 人口減少危機論のウソ』を参考してもらいたい。)

さて、筆者の指摘をよりよく理解してもらうために、今の雇用環境を確認しておこう。安倍政権下で進められた異次元金融緩和によって、実質金利が相当程度低下し、為替安、株高をもたらし、同時に実質金利低下が継続して、人やモノへの投資も徐々に増加していることは周知のとおり。

特に雇用環境の改善は顕著だ。民主党政権下では減少傾向であった就業者数は、安倍政権以降は反転・増加傾向に転じ、6300万人から6600万人へと300万人程度も増加している。失業率もほぼ下限近辺ともいえる2.5%程度まで低下している。

このため、名目賃金は上昇傾向にある。実質賃金についても、当初は名目賃金の上昇が物価上昇より遅れるために低下したが、最近では底を打ち反転・上昇傾向に転じている。

さて、今回の入管法改正案がその良好な雇用環境へどのように影響をもたらすのか。それを論じることが今回の主題であり、一番の問題だ。

現在の日本にも一定数の「外国人労働者」がいる。安倍政権になってから、「外国人労働者」の数は70万人から130万人へと60万人も増加した。130万人の内訳で、雇用環境に影響を与えるといわれるのは、留学生アルバイト30万人と技能実習生25万人であるが、これらは安倍政権でそれぞれ20万人、10万人程度増加した。

政府がまとめた「たたき台」では、2019年度から5年間で130万〜135万人の労働者が不足するため、約26万〜34万人の外国人労働者の受け入れを見込み、来年度は約60万人の人手不足に対して、最大約4.7万人の受け入れを想定するという。

ここまでが前提だ。

さて、これまでの外国人労働力の受け入れ数は、上に述べたとおり130万人であるが、それが賃金に対してどのように影響してきたのかを調べてみよう。

下図は、外国人労働者の浸透度と賃金変化を示したものだ。はじめのものは、アベノミクスが実施された当初のものであり、2枚目は、アベノミクスの全期間である。

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各産業で、アベノミクス当初と全期間でどのような変化が起こっているかについて、上の2図を合わせてみよう。

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https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58527