トヨタ自動車とソフトバンクグループが移動サービスで提携し、新会社をつくると発表した。記者会見でトヨタの豊田章男社長は「車をつくる会社からモビリティー会社に変わる」と述べ、「ドアを開けたら、孫さんが必ず前に座っていた」と語っている。提携はトヨタ側からの打診で、それを聞いた孫正義会長兼社長は「えっ、マジか?」と思ったという。

さもありなん。トヨタは社長経験者が経団連の歴代会長に名を連ね、最高位の勲章を授与されてきた「日本のエスタブリッシュメント企業」である。ソフトバンクは孫氏が一代でつくりあげた企業だが、わが国の「エスタブリッシュメント」はこれまで、こうした「成功した起業家」を必ずしも尊重してこなかった。

ここに、米国バブソン大学と英国ロンドン大学ビジネススクールの起業研究者による「グローバル・アントレプレナーシップ・モニター2018年版」がある。この調査では「近くに起業をした知人がいるか」「身近に良い起業の機会があるか」「自分には起業のための知識・スキル・経験があるか」という点から「起業スピリットインデックス」をつくりあげた。これで54カ国をランキングしたところ、日本の順位は他国に大きく引き離されての最下位である。

豊田氏は今回の会見で「孫さんは未来の種を見抜く先見性がある」と評価した。孫氏が経営するビジョンファンドはいわゆる「投資ファンド」であり、世界各地で投資機会を探し続けてきた。そして、その結果、日本をリードする企業であるトヨタから、そうしたグローバルな投資実績を認められたわけである。

若い世代の変化はもっと進んでいる。例えば東京大学の学生の就職活動。特に理系の卒業生の多くが起業を考え、官僚化した大企業を敬遠し始めているそうだ。こうした動きに対応し、グーグルなどは新築する本社に起業支援の施設を設けるという。また、若手起業家にはソフトバンク出身者など起業家の下で鍛えられた人材が増えている。

劇的な変化の時代にあって、若手の企業人の間でももはや「サラリーマン経営者」をリーダーとみなさない例が増えてきた。そこに「孫氏を経団連会長に」との待望論につながる深層がある。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO36546890W8A011C1EN2000/