「誰からも相手にされない企業、というか、存在すら認知されない企業って日本に数多くあるんですよね。そしてどんどん増えている」。最近、ITコンサルタントやITベンダーのマーケティング担当者と話していて、そんな話題がよくのぼる。何の事か分からない読者も多いと思うが、説明の前にそんな企業にレッテルを貼っておく。記事タイトルにある「IT棄民」だ。ITに関して見捨てられた企業のことだ。

 そもそも「棄民」とは、政府などに見捨てられた人々のことを指す。もう少し広い意味で使われて「棄民世代」といった言い方もある。就職氷河期でもあった日本経済の長期低迷期に社会に出た人たちのことを指し、いわゆる「ロスジェネ世代」である。IT棄民の場合、見捨てられたのは人ではなく企業だ。ITベンダーだけでなく、ある意味、我々のようなIT系メディアからも見捨てられてしまって、最新ITの恩恵を受けられない存在になってしまっているのだ。もちろん政府からも見捨てられている。

 こう書くと、「ひょっとして中小企業や零細企業のことを言っているのか」と思う読者もいるだろうが、そうではない。もちろん中小企業や零細企業にIT棄民状態の企業は多い。だが、中堅企業や大企業にもIT棄民となる企業が増えてきている。こうした企業も以前は基幹系システムなどの導入や刷新にカネを投じていたが、ある時期にIT予算を大幅に削減した。その結果、カネの切れ目が縁の切れ目で、出入りのITベンダーに見捨てられてしまったのだ。

 IT予算を大きく削減した企業は、IT部門を縮小してIT担当者の数を減らした。その極端な例が、IT担当者が1人しかいない「ひとり情シス」だ。IT担当者が1人、あるいは数人となると当然、目の前の業務で手いっぱいになり、最新のITに目配りする時間もモチベーションも失われる。とはいえ、社内にIT担当者がいればまだマシなほうで、中堅以下の企業では「ゼロ情シス」、つまりIT担当者が絶滅してしまったケースもある。

 かくのごとしで、ITベンダーに見捨てられた企業は社内にIT動向をウオッチする人もいなくなる。当然、IT系メディアなどがどんな有益な情報を発信しても、彼らには届かない。政府がIT減税などのインセンティブを打ち出しても、彼らは活用できない。逆に言えば、こうした企業に対して、IT絡みの件で外部からアクセスする術が無くなってしまう。その結果、誰からも見捨てられたIT棄民となり、存在すら忘れられてしまうのだ。

中堅企業に残る「昭和のIT」
 「なんだ、身から出たサビではないか」。そう笑う読者は多いだろうが、まさにその通り。本来の棄民とは異なりIT棄民の場合、捨てられた状況に陥ったのは自身の責任だ。ただ、相当数の中堅中小企業がIT棄民状態であり、大企業にも広がっているのは由々しき傾向である。日本の国力にも関わる問題のため、自己責任論を振り回してばかりはいられない。欧米だけでなく新興国の企業もクラウドなどを使いこなしている時代に、それらから隔絶された日本企業が多数いるようでは話にならない。

 IT棄民となった企業は実際にどのような状況なのか。大企業は後回しにして、まずは中堅中小企業の典型例を示しておく。中堅中小企業の場合、もともとIT予算が少ないからIT棄民になりやすいのだが、以前から身の丈に応じたパッケージソフト製品を導入し、今はクラウドに移行したり移行を検討したりしているような企業は問題ない。むしろ、かつてそれなりの規模でIT投資をしていた中堅中小企業のほうがIT棄民に陥っている。

以下ソース
https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00148/092700031/