ロデオで跳ね馬にカウボーイがまたがっていられるのは平均でたった8秒間という。ピントを合わせながら馬の躍動的かつ予測不能な動きを追いかけ、絶妙な一枚の写真に収めるのは至難の業だ。だが、カメラの進化がこうした苦労からプロカメラマンを解放しつつある。

 湾岸戦争の取材経験もある米国の写真家、ケネス・ジャレッケ氏は愛機をキヤノンの一眼レフからソニーのフルサイズミラーレス「α(アルファ)7R III」に変えた。「以前は自分でピントを合わせ、うまくいくのを祈るしかなかった」が、今回は動く被写体の自動フォーカス機能や連写機能も使い最高の瞬間を捉えた。何より画質の高さが気に入っている。

 優れた写真に贈られるロバート・キャパ賞の受賞経験がある米写真家、デビッド・バーネット氏も今はソニーの愛用者だ。2018年2月開催の韓国・平昌冬季五輪には最上位機種「α9」で臨んだ。時に4つのカメラを持ち運ぶこともあるため、小型軽量化が進んだ「ソニーのカメラの軽さやサイズが好きだ」という。

 技術で市場にくさび

 スポーツを中心としたプロ向け市場で、ソニー製のカメラに乗り換える動きが広がっている。メディアの情報発信もデジタル化が進み、細部までより鮮明な写真(画像)が求められる中、ソニーは得意のセンサー技術を生かして長らくキヤノンとニコンが二分してきた同市場にくさびを打ち込んだ。

ソニーは06年のコニカミノルタのカメラ部門買収を機にプロ向け市場へ本格参入。他社に先駆け13年に最も画素数の多いフルサイズミラーレスを発売した。ファインダーとレンズの枠を「一眼」に一致させる鏡やそれを内部で畳む複雑な構造がなく、重さはバッテリー込みで673グラムと競合2社の同等機種の半分以下。シャッター(機械)音がないのも特長だ。

 米国モーニングスターの伊藤和典アナリストはソニーのカメラの将来性について、「オートフォーカス機能や画質を向上させるイメージセンサーが進化しており、さらにマーケットでのシェアを拡大できるポジションにいる」という。

 α9はカメラ記者クラブ主催の「カメラグランプリ2018」で5月に大賞を受賞した。実行委員長を務めたアサヒカメラ編集部の猪狩友則氏は、無音連写機能は「ミラーレスの可能性を予感させる」との投票が多かったと評価。同クラブの福田祐一郎代表幹事は、静寂が求められるゴルフの試合などでは既にαシリーズが使われていると述べた。

 あらゆる分野を想定

 だが、キヤノンとニコンが築いてきた市場には、まだ優位性もある。例えば、2社のレンズラインアップはそれぞれ70本以上、約90本とソニーの約30本(フルサイズミラーレス向け)を大きく超える。大規模イベントなどでのサポート体制もカメラの貸し出しや簡易修理まで万全だ。
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