ビジネス向けチャットアプリの「Stride」と「HipChat」の提供を豪ソフトウェア企業のアトラシアンが終了し、これらを競合する「Slack」に吸収統合する。これをもってビジネス向けチャットアプリの市場はSlackが制したようにも見えるが、実はアトラシアンとSlackの双方にとってメリットのある取引なのだという。

豪ソフトウェア企業のアトラシアンは、2017年9月に「Stride」というビジネス向けの新しいチャットアプリを提供開始した。これは、同種のアプリである「Slack」を真正面から狙ったものだった。「コミュニケーションのプラットフォームとしてこのアプリを使ってくださっている何万ものチームからの感動の声に、喜びを感じています」と、アトラシアンは3月のブログ記事で意気込んでいた。

それから1年も経たぬまま、アトラシアンは先行するビジネス向けチャットアプリの「HipChat」とともに、Strideの灯を消そうとしている。同社は「この2製品を19年2月15日までに提供中止し、コミュニケーションビジネスから撤退する」と発表した。
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その上、アトラシアンは「パートナーシップ」と彼らが呼ぶ取引の一部として、StrideとHipChatの知的財産を、Slackを提供するスラック・テクノロジーズへと譲渡しつつある。スラックはアトラシアンのユーザーを自社のアプリへと吸収する予定だ。

また、アトラシアンはスラックに出資もしている。スラックはこの出資について「小さいが象徴的に重要な意味をもつ」としている。両社は契約条件を明らかにしていない。

この取引は、何百万人ものオフィスワーカーが知っていることを確認する結果となった。つまり、仕事用のメッセージツールとして、Slackが支配的なものとなったのだ。Slackは、マイクロソフトの競合製品よりも多くアクティヴユーザーがいること、このほとんどが驚くほど熱烈な支持者である点について強調している。

クラウドベースのアプリを連携させるツールを提供しているZapierの最高経営責任者(CEO)であるウェード・フォスターは、次のように語る。「Slackは14年にはHipChatの市場シェアを侵食するようになっていたのです」

アトラシアンにとっても「大きなメリット」
Zapierのデータによれば、ほかのアプリにSlackをリンクさせている人の数は、14年末までにはHipChatをを追い越していた。HipChatを使っている人の数はすぐに減少し、一方でSlackを使用している人の数は急速に増えていった。

この取引はアトラシアンの敗北宣言でもあった。「彼らはほかの場所でトップになるために、銅メダルだった製品を諦めたのです。難しい決断だったに違いありません」と語るのは、Pingpadの創業者であるロス・メイフィールドだ。Pingpadは、Slackやほかのビジネス向けチャットプラットフォームとの連携ツールを開発しているスタートアップである。

「この取引は、アトラシアンにとっても大きな利点があります」と、Summit Insights Groupのシニア・アナリストであるジョナサン・アラン・キースは言う。2社は互いの製品についてクロスプロモーションを行い、これによってアトラシアンはバグトラッキング用アプリの「JIRA」などの製品において、新しい顧客を得られるかもしれないからだ。

「端末間のコミュニケーションサーヴィスは、すでに満杯の状況でした。これによってアトラシアンは、成長しつつある中核製品に注力できるようになるでしょう」と、キースは語る。事実、取引が発表されたあとの立会外取引において、アトラシアンの株価は15パーセント上昇した。

アトラシアンとスラックは、両社の製品の連携を確かなものにするために、長い期間にわたって作業をともにしてきた。IDCのアナリストであるウェイン・カーツマンは「両社は長きにわたってライバルであり、友でもありました。しかし最終的に、この競争は2社が勝者になって終わりを告げたのです」と説明する。

続けて「Slackの連携機能は、アトラシアンの製品をワークフローの中心に置いています」とカーツマンは言う。「両社とも収益性と顧客満足度の向上を得られるでしょう」
2018.08.06 MON 08:00
https://wired.jp/2018/08/06/office-messaging-wars-are-over/