トランプ米政権は2日、オバマ前政権下で定められた自動車の燃費基準を撤回すると発表した。カリフォルニア州などが独自に定めていた燃費規制も廃止に向けた交渉を始める。産業界に配慮して環境規制を撤廃するトランプ大統領の公約に沿った決定だが、燃費規制を強化する世界の流れに逆行するもので、一部の州や野党・民主党の反発は必至だ。

 現行の米国の燃費基準はオバマ前政権下の2012年に定められた。適用期間は17〜25年で、乗用車については25年までに燃費を17年比で約3割改善するよう求めている。達成できなければ罰金が生じるという内容だ。

 米環境保護局(EPA)と米運輸省高速道路交通安全局(NHTSA)は2日、21年以降の基準値を撤回し、新しい基準値を策定すると提案した。一定割合のEVなどの販売を義務付けるカリフォルニア州の「ゼロエミッション車(ZEV)規制」なども廃止を求めて各州と協議に入る。

 地球温暖化に懐疑的なトランプ大統領の意向を反映した。EPAはオバマ前政権が定めた燃費基準の中間評価について「政治的な便宜のためにプロセスが短縮され、燃費基準を高く設定しすぎた」と指摘していた。

 特にカリフォルニア州などが導入したZEV規制については、連邦政府と州政府の「二重基準」の達成に苦しんでいた米国の自動車業界が見直しを求めていた。自動車産業は部品や販売網を含めて全米で725万人の雇用を抱えており、トランプ政権は11月の米議会中間選挙をにらんで業界に配慮を示した形だ。

 EPAは現行の規制が続けば50年間で5千億ドル(約56兆円)超のコストがかかるとの試算を公表した。一方、世界で車を販売する自動車メーカーにとっては米国外の厳しい基準にも対応しなければならず、新基準で実際に規制対応コストが下がるかどうかは不透明だ。

 新方針にはカリフォルニア州の反発が予想される。連邦政府と州政府が法廷で争う形になった場合、同様の規制を課すニューヨーク州なども同調する見通しで、問題が長期化する可能性もある。

 自動車の燃費を巡っては欧州が最も厳しい基準を取り入れており、乗用車については21年までに走行距離1キロメートル当たりの二酸化炭素(CO2)排出量を15年比で3割少ない平均95グラム以下にするよう求めている。米国の基準は欧州よりも緩いが、米国の自動車メーカーなどでつくる業界団体は基準が厳しすぎるとして緩和を求めていた。

日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33749940S8A800C1FF2000/