7月30〜31日の日本銀行の金融政策決定会合(以下、「決定会合」)は、当初、インフレ率の停滞についての総括・分析が主たるテーマになると思われていた。

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だが7月20日に報じられた一部メディアの報道では、現在の10年金利誘導水準の柔軟化・引き上げなどで、イールドカーブコントロール(以下、「YCC」)の枠組みの調整を検討すると伝えられた。
これがサプライズとなり、ドル円相場は一時1ドル=111円付近まで円高となった。それだけではなく、日本の長期金利上昇が米欧の長期金利上昇をもたらすなど、日銀の政策が久しぶりに注目を集める状況になっている。

■日銀の金融緩和の「副作用」とは何なのか?

実際には、7月末の決定会合において10年金利の引上げ・柔軟化を議論・検討するという点については一部メディアでしか報じられていない。
インフレ率の停滞が続く中で、この決定会合で、10年金利の誘導水準の引き上げそのものが決定される可能性は低い、と筆者は考えている。

多くのメディアによる報道を踏まえると、決定会合の準備にあたる担当者らは「副作用への対応」の検討を進めているとみられる。
その是非はともかく、副作用への対応が2018年末にかけて決定会合での主要なテーマになっている模様である。
一方、観測報道のみが先行している可能性もあるため、政策変更が何もないことを含め幅広いシナリオが想定できるとみている。

金融政策は、効果と副作用を比較して、最善の政策を選択する必要があるが、日銀の金融緩和政策の副作用とは何か?
 1つには、低金利が続く中で銀行などの金融機関の収益減少が、金融システムを不安定化させ、それが銀行貸し出しや預金減少をもたらし、経済活動に悪影響を及ぼす経路が考えられる。

一方、銀行など金融機関の利益が目立って減少しているわけではない。また、日銀短観の調査や預金や貸出の動向などからも、銀行の融資姿勢が厳しくなっているという兆候はなく、
こうした点では、副作用はほとんど見られていない。銀行の財務状況をモニターする立場にある日銀が、市場関係者よりも多くの情報を持っており、それを理由に副作用を重視し始めている、ということなのかもしれない。

■日銀が「調整」と称して動けば、金融政策信認低下のリスク

だが、副作用の判断基準があいまいなままであれば、副作用への対処が妥当であるかが、かなり不明確になる可能性がある。

仮にYCCの見直しが実現して、今後10年金利の誘導目標の上昇を容認すれば、円高期待を強めるなど金融引き締め的に作用する可能性がある。
観測報道によれば、「副作用軽減の政策は、出口政策とは異なることが明示される」という。
もしそうだとするならば、金融引き締めとなる金利引き上げのデメリットよりも、副作用緩和というメリットのほうが大きいということを、
日銀ははっきりと説明することができるのだろうか?

今後検討するとされる、長期金利上昇を容認するだけでは、2%インフレの早期実現が難しくなっている中で、
政策変更の正当性を説明することは難しいのではないか。
このため、仮に2018年末にかけて、長期ゾーンの金利引き上げを行うとしても、
もう1つの政策ツールである短期金利の引き上げの条件として
「2%インフレ実現に向けて、より明確かつ強固なコミットメントを行う」などの緩和強化策も同時に実現する可能性がある。

真偽が不確かな観測記事の段階で、今後の日銀の金融政策が金融市場に及ぼす影響を予想するのは難しい。
しかし、金融システムへの配慮を理由にして、「調整」と称して金融緩和政策を弱めることは、2%インフレ目標へのコミットメントが弱まり、
金融政策への信認を低下させかねない。
2期目となった「黒田日銀」において、早期のインフレ目標実現を目指す姿勢がさらに弱まっているとの疑念が、今後高まるおそれがある。

2006、2007年に日銀がほぼゼロインフレ下で利上げを始めたときには、当時の不動産市況の上昇などが副作用とされ、利上げの理由として挙げられていた。
当時と現在では異なる部分もあるが、明確になっているようにはみえない「副作用」を重視しつつある最近の日銀に、当時と同様の危うさを感じるのは筆者の杞憂だろうか?

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東洋経済オンライン
https://toyokeizai.net/articles/-/231129