>>1 から続く

 在任中、独VWなどのディーゼル排ガス不正問題の逆風を受けたが、2017年度の世界販売台数は163万台を超えて過去最高を更新するなど、安定的な成長路線を築いた小飼氏にすれば有終の美をもって会長に退くことができたと言えるだろう。

 ただ、外野席から見れば、大抜擢などのサプライズはなく「順当」すぎるほどの新体制に少し物足りなさも感じるが、今後のマツダの経営戦略を考えると、それ相応の人選と交代時期についても賢明な選択だったとも受け取れる。

 小飼氏の社長在任5年は2019年3月期を最終目標とする新世代技術のSKYACTIV商品の導入や「モノ造り革新」によるコスト改善とトヨタ自動車とのアライアンスで米国新工場建設など量的・質的成長を目指す「構造改革プラン」を推進してきた。(TEXT:福田俊之)

■小飼会長は勝ち投手の権利を手に、リリーフに勝利を託す
 8月に満61歳になる新社長の丸本氏は小飼氏よりも3歳下で入社も3年遅いが、出世は5年も早く41歳という若さで取締役に就任するなど「将来の社長候補」として早くから一目置かれる存在だった。

 しかも、2013年6月に小飼氏の社長就任と同時に副社長に昇格し、ナンバー2として北米事業や企画・管理領域を統括した。

 言うまでもなく、丸本氏はステージ2の最終年度に入った一連の構造改革とその先の年産200万台規模を目標とする新たな成長戦略についても計画の立案段階から取り組んできたキーマン。

 それだけに、新体制後もこれまでの経営方針を踏襲し、ブレることなく北米事業の立て直しを最優先課題に持続的成長への「足場固め」に邁進していくものとみられる。

 では、なぜ、構造改革のステージ2をあと1年残す重要な仕上げの時期にあえて社長交代に踏み切ったのか。それは小飼社長の在任5年を野球に喩えるとわかりやすい。

 ロータリーエンジンの開発で知られた山本健一元社長の口癖だった「飽くなき挑戦」の言葉を借りれば、マウンドに立つと常に全力投球を続けることになる。

 どんなにタフな社長でも9回まで投げ切るには限界もある。先発投手はリードして5回まで投げると勝利投手の権利が得られる。

 大きな失点もなく好投した小飼氏の場合も無理をせずに6回以降は、全幅の信頼を寄せる丸本氏にリリーフ役を託したというシナリオが成り立つ。

 もちろん外的環境が激変するなかで救援投手のエースとして満を持して登板した丸本社長も試合終了までリードを保ったまま投げ切れるとは限らない。

 マツダの歴史は「小さな成功、大きな失敗」の繰り返しでもあった。2年後の2020年には創業100周年、翌2021年には待望のトヨタと合弁の米アラバマ州の新工場が稼働する予定でイベントも目白押し。

 「慎重派」と評される丸本社長だが、「技術」と「財務」に精通する”二刀流≠フ強みを発揮し、マツダらしい身の丈に合った手堅い経営で独創的なブランドにさらに磨きをかけられるかが問われる。(TEXT:福田俊之)

>>3 へ続く