音より速い「超音速機」の開発競争が始まった。米ボーイングは音速の5倍(マッハ5)で飛行する「極・超音速機」の実用化を目指すと表明。米スタートアップのブーム・テクノロジーやスペースXも、2020年以降に旅客の高速輸送を実現させる構想に野心を隠さない。空の未来を巡る新旧勢力の主導権争いはスピード勝負の様相だ。

「ボーイングは高速旅行に旅客の未来を見ている」。世界最大級の航空展示会「ファンボロー国際航空ショー」の開幕を翌日に控えた15日。ロンドン市内で記者会見したボーイングのデニス・マレンバーグ最高経営責任者(CEO)は、30年代とみられる極・超音速機の実用化について、こう切り出した。

「THE FUTURE IS BUILT HERE」(未来はここに建てられている)――。ファンボローのボーイングのパビリオンにはこんな前のめりのメッセージが掲げられ、航空機だけでなく、航空・宇宙の未来をアピールした。パビリオン内には極・超音速機の模型が展示され、詰めかけた来場者の注目の的となっていた。

新型機にはまだ名前もないが、空気抵抗を極限まで受けない流麗な機体デザインが目を引く。全長61メートル、翼幅は21.6メートルあり、全長はボーイング主力の中型機「787」に相当する大きさとなる。マッハ5で飛行し、米国を起点とすると世界の主要都市に2〜3時間で到達できるという。

構想が実現すれば、日本から欧米への出張でも日帰りが可能になる。例えば、ロサンゼルス(米国)からシドニー(オーストラリア)までは4時間、ニューヨークからロンドンなら2時間半と、現状の3分の1程度に短縮できる。ボーイングで極・超音速プロジェクトの主任研究員を務めるケビン・ボウカット・シニア技術フェローも「(米国から)欧州、アジアへの日帰り往復フライトが可能になる」と明るい未来を夢見る一人だ。

■眼下に地球、感覚は宇宙旅行
速いだけではない。極・超音速機は高度9万5000フィート(2万9000メートル)の上空を飛ぶ。一般的な旅客機の高度3万5000フィート(約1万メートル)よりもはるかに高く、「眼下には湾曲する地球が見える。見上げれば、宇宙の漆黒が広がる」とボウカット氏。もはや宇宙旅行の感覚に近い。

超音速機の開発には長い歴史がある。1940年代にはすでに米航空宇宙局(NASA)の前身となった米国の航空当局が有人の超音速飛行の実験に成功。69年には英仏が「コンコルド」を共同開発し、商用運航を始めた。ボーイングも66年、米政府から超音速機の試作機の製造先に選ばれた。26の航空会社から122機の発注があったものの、試作機の完成を待たず、政府からの資金が71年に打ち切られた。

前世代の超音速機は燃費が悪く、費用対効果も合わなかった。飛行時に発生する「ソニックブーム」と呼ばれる衝撃波が社会問題となり、路線は事実上限定。コンコルドは数千億円規模の開発コストをかけた割にビジネスとして成り立たず、パリでの墜落事故を経て03年に退役した。低燃費機の全盛時代を迎え、超音速の旅客輸送機は冬の時代に入っていた。

■技術革新と新規参入、構想後押し
再び、超音速機の開発ブームが起きつつある背景には技術革新がある。NASAは衝撃波を生まない超音速機を開発中で、20年にも試験飛行させる。ボーイングもマッハ5の飛行時に出る超高温に耐えるチタンの外装や、極・超音速の最新鋭エンジンを開発している。

新規参入組も競争を刺激している。超音速機を開発するブームは17年12月、日本航空と資本業務提携し、世界の航空会社を驚かせた。日航は1000万ドル(約11億円)を出資し、ブームへの出資比率は数%になるようだ。プロモーションで協力するほか、将来の20機の優先発注権を得た。

(続きます)