サウジアラビアの原油の増産がリスクに直面している。米国の制裁復活でイラン産原油の輸出が抑制される分をサウジが引き受ける構図になることで、サウジとイランの対立がさらに深刻になりかねない。米トランプ大統領はサウジに圧力を強めるが、増産には技術的に難しい面もある。米国の要請を受けたサウジの増産は、中東情勢や原油市場に波乱を生み出している。

トランプ氏は各国に対し、11月4日までにイラン産原油の輸入をゼロにしなければ、米国のイラン制裁に違反したとして処罰を科すと圧力をかけている。市場では日量80万〜200万バレルのイラン産原油が締め出されるとの観測が浮上。これが原油の需給の逼迫を生み、原油価格は1バレル80ドルに迫る高値での推移となっている。

トランプ氏は11月の米議会の中間選挙を控え、有権者に不人気なガソリン高を避けたい意向だ。原油価格の引き下げのため、産油国に増産を求めている。増産を主に引き受けるのはサウジになりそうだ。同国は日量200万バレルを超える生産余力を持ち、対イランで共闘する米国の不興を買いたくないためだ。既にサウジ政府は7月上旬、生産余力を活用する準備があると表明している。

ただ、サウジの増産にはリスクも伴う。イランの革命防衛隊高官は最近、イラン産原油が禁輸となれば「我々は原油を運ぶ船舶がホルムズ海峡を通過することを許さない」と語り、抗議のため海峡を封鎖する可能性を示唆しけん制する。

ペルシャ湾とアラビア海を結ぶホルムズ海峡は原油輸送の大動脈で、実際に封鎖となれば、サウジの輸出に支障が出るのは避けられない。原油に依存するサウジにとって死活問題で、イランとの軍事的な緊張が深まるのは確実だ。サウジとイランは断交中でもある。

さらにサウジと他の産油国との結束が揺らぐ可能性がある。サウジが主導した6月の会合で石油輸出国機構(OPEC)加盟国やロシアなど非加盟国は、2017年1月から続ける協調減産を緩めることで合意した。行き過ぎた減産をやめ、産油国全体で日量100万バレルほど生産を増やす。

だが、その後も原油価格は高値が続き、トランプ氏はサウジにさらなる増産を迫っている。合意内容を超えてサウジが産油量を増やせば、原油価格の安定でまとまってきた産油国の結束が揺らぐことにもなる。イランのザンギャネ石油相は「OPECは連帯と独立を失う」とけん制する。

サウジの増産には技術的な難しさもある。足元のサウジの生産量は日量1000万バレルほどだ。これを一気に100万バレル以上も増やすとすると、原油が埋蔵されている地層に影響を与えかねない。そのため過去にサウジの産油量が日量1100万バレルを超えたのは一定期間に限られている。

日量200万バレルほどのサウジの余剰生産能力は世界の約6割を占める。トランプ氏は6月末にサウジのサルマン国王と電話会談し、サウジに最大200万バレルの増産を求めたもよう。

仮に、この要求にサウジが満額回答を示せば、世界の原油市場での余剰生産力は大幅に低下することになる。新興国の需要が増加するなか、産油国でトラブルが起きた場合、供給懸念が深刻になる恐れがある。

2018年7月11日 19:00 日本経済新聞
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO32872170R10C18A7FF1000