福岡県内で発生するニセ電話詐欺などの特殊詐欺の手口が多様化している。これまでは高齢者を狙った還付金詐欺が多かったが、最近は若年層を狙う架空請求なども目立つ。警察や金融機関で高齢者向けの対策が進んだことで、詐欺の標的の年代や手口が分散しているとみられる。県警はより幅広く啓発を進め、被害を食い止めようと試行錯誤している。

「狙われるのはお年寄りの方に限りません」「ニセ電話詐欺を防ぐ方法教えます」。4月下旬、福岡県川崎町で開かれた「かわさきパン博」。県内のパン店に混じって県警が出展したブースを、パンを抱えた家族連れや若者らが興味深そうにのぞき込んだ。

ブースに置かれたのは自動録音機能付きの固定電話。ニセ電話詐欺の犯人役の県警職員から着信があると「迷惑電話防止のため、音声を録音させていただきます」と通知が流れ、全ての通話が自動で録音された。説明を受けた同県香春町の男性会社員(53)は「両親のために説明を聞いたが、自分の家にも必要かもしれない」と話した。

2017年に県内で起きたニセ電話詐欺の認知件数は前年比1.7倍の597件。内訳をみると、16年までは医療費などの還付が受けられると偽ってATMなどを操作させる「還付金詐欺」が4割以上を占めたが、17年は25%にまで減った。県警が啓発を進めたほか、民間でもふくおかフィナンシャルグループ(FG)が昨年から高齢者顧客のATMでの振り込みの利用制限を始めるなど、官民の対策が実を結びつつあるためとみられる。

一方で増えたのが若年層を狙った架空請求詐欺だ。「有料動画の閲覧履歴があります」。17年10月中旬、岩手県の会社員の男性(38)のもとに1通のメールが届いた。記されていた連絡先に慌てて電話すると「支払わないと法的措置をとります」。動転したまま、コンビニで買った電子マネーカードで計56万円を支払った。

男性が支払いを終えると、今度は別の請求が来たため、架空請求だと気付いたという。県警は今年3月、この男性ら4人から電子マネー計210万円分をだまし取ったとして、北九州市のマンションを拠点にしていた男女4人を詐欺の疑いで逮捕した。被害者は20〜30代だった。

県警によると、県内のニセ電話詐欺の被害者はこれまで65歳以上の高齢者が7割ほどを占めていたが、18年1〜4月は65歳未満の被害が53%と過半に。捜査関係者によると、アダルトサイトだけでなく映画や音楽配信サイトをかたる架空請求も増えているという。

県警生活安全総務課の安全安心まちづくり推進室の池上達哉室長は「ニセ電話詐欺の手口は増えている。自分は関係ないと思う若い人も考える機会を増やしたい」と、幅広い啓発に力を入れるとしている。
2018/5/26 9:32
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31009510W8A520C1ACX000/