東芝の半導体メモリー子会社「東芝メモリ」の6月売却が確定した。かつて世界を席巻した日本の半導体産業で唯一、世界的な競争力を残す同社は、日米韓の企業連合に委ねられる。半導体は首位の韓国サムスン電子を筆頭に投資競争が激しく、東芝メモリが体力で真っ向勝負するのは難しい。新しい株主のもと、次世代につながる革新技術を生めるかが問われる。

中国の湖北省武漢で現在、巨大工場の建設が進む。国有半導体大手、紫光集団系企業が3兆円近くを投じるメモリーの最新鋭工場だ。スマートフォン(スマホ)や高速通信が普及する中、世界のデータ生成量は25年に160兆ギガ(ギガは10億)バイトと、16年の10倍に膨らむ。メモリーはそのデータを蓄積する半導体だ。

このNAND型フラッシュメモリーを1987年に発明し世界で初めて量産したのは、ほかでもない東芝だ。半導体はかつて日本勢の独壇場だったが、韓国勢などの台頭で今は見る影もない。

東芝メモリはフラッシュメモリーの分野でサムスンに次ぐ2位と、いまだに世界最先端の開発競争を続ける「最後のとりで」だった。だが経営再建策として、米投資ファンドのベインキャピタルや韓国半導体大手SKハイニックスなどへの売却を決めた。

量産が難しいメモリーは生産技術が競争力の源泉。東芝メモリは売却後も東芝とHOYAの日本勢が議決権の過半を握り続ける。三重県四日市市の主力工場は稼働を続けるほか、岩手県で建設中の最新鋭工場などの投資や研究開発は維持する。

一方、ベインには高額な配当を支払い、資金拠出した米アップルなどの販売先には割安な価格で供給する必要が生じる。サムスンや国主導で投資する中国勢と投資で競うのは限界がある。

半導体産業ではソフトバンク傘下の英設計大手ARMや米クアルコムなど、自社工場を持たずに世界で強い影響力を保つ企業も多い。中国の中興通訊(ZTE)は米政府から米企業との取引を禁じられた結果、半導体などを調達できずスマホの生産停止に陥った。

日本の半導体大手が相次ぎ退出するなかで東芝が踏みとどまれたのは、自ら発明したフラッシュメモリーの強みがあったからだ。東芝メモリが将来も生き残れるかは、体力勝負と一線を画せるような次世代技術や事業モデルを生み出す力にかかってくる。
2018/5/19 2:00
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO30727160Z10C18A5EA2000/