実業家の堀江貴文氏(45)が自身のツイッターで絶対菜食主義者・ヴィーガンについて「ヴィーガンとかまじ健康に悪いと思うよ」とつぶやいたことが話題になっている。これに対し非難するコメントが次々と寄せられたが、「こんな奴らのために美味しい肉を食べられない世の中にしたくないので、徹底的に潰します」と反発。もっともこの問題について栄養学の専門家である文教大学健康栄養学部の岩井達(いわい さとる)准教授は堀江氏の発言を「栄養学的に根拠がない」とする。ホリエモンのヴィーガン批判について同准教授に話を聞いた。

ヴィーガン=絶対菜食主義者、マドンナやトム・クルーズも
そもそもヴィーガンとは何か。絶対菜食主義者と呼ばれ、分かりやすく言えば「植物性食品しか取らない人」のことである。ベジタリアンは肉や魚を食べないが、ヴィーガンはそれに加えて卵、乳製品、ハチミツも口にしない。「動物から搾取しない」という考えに基づくもので、毛皮や革製品なども使用しない。

米国の場合、大人の3.3%がベジタリアンで、その46%がヴィーガンとされる(2016年ギャロップ調査)。総人口を3億人と考えると、およそ450万人がヴィーガンという計算。確かにマイノリティーではあるが、一定数存在するのは間違いない。有名人でもマドンナ、ブラッド・ピット、トム・クルーズ、アリアナ・グランデなどがヴィーガンとして知られている。アスリートには1984年ロサンゼルス五輪の陸上競技で4つの金メダルを取るなどしたカール・ルイスもいる。受け止め方によるだろうが、いずれも不健康なイメージとは程遠い。

堀江氏の発言を考える時に、その属性を考える必要がある。同氏はグルメとして知られ飲食関係の書籍も多く出版し、和牛を世界に向けて発信するコンセプトのユニット「WAGYUMAFIA」を結成し活動を続けている。個人的嗜好からも、そしてビジネス面でも「積極的に肉を食べよう」という立場にいることは間違いなさそうである。そうした立場から、ヴィーガンに対する攻撃的なツイートになった可能性は考えられなくもない。

一方の岩井逹氏は「私は、いわゆるベジタリアンではありません」と話している。つまり、堀江氏から攻撃を受けたヴィーガンのサイドに立っているわけではない。アカデミックな立場から、栄養学的観点で客観的に分析する立場にあるとみていい。

ヴィーガンが唯一摂取できない栄養素「ビタミンB12」
ヴィーガンは動物性食品を摂取しないため、人間に必要な栄養素がとれずに栄養のバランスが崩れ、不健康であると考えることは一定の合理性があるかもしれない。その点、岩井氏によるとヴィーガンが摂取できない栄養素が存在するという。一般的には肉を食べないからタンパク質が摂取できないように感じるかもしれないが、タンパク質は大豆等で補うことが可能である。

「ヴィーガンが唯一、摂取できないのはビタミンB12です。昔の食品成分表にはノリや納豆から摂取できるとされていましたが、実際は摂取できません。このビタミンB12は核酸、赤血球の生成に関与し、欠乏すると悪性貧血の原因になります」。

ビタミンB12はレバー、卵、肉、魚介類などの動物性食品に含まれている。ベジタリアンは卵を食べるから補給できるがヴィーガンは卵も口にしないため、外部からの摂取は期待できない。そうなると堀江氏の言うようにヴィーガンは悪性貧血の可能性があるとも思える。しかし、岩井氏はその点を明確に否定した。

「人間の体にはビタミンB12に含まれるアデノシルコバラミン、メチルコバラミンが不可欠です。その2種類は確かに植物性食品には一切含まれていません。このコバラミンは腸の微生物が作っており、胃の内側の内因子という物質とくっついて運ばれ回腸で吸収されます。そして、使うと6割から7割はリサイクルされるのです。人は生まれた時に母親からコバラミンを受け継ぎ、出生後は母乳から摂取します。出生時には必要な量の数千倍を持って生まれるため、普通は欠乏症になることはありません」。

岩井氏によると、実際にビタミンB12の欠乏による悪性貧血の発症例はわずかに3例しかない。ただし、これは小腸に腫瘍ができたことが原因となっており、ヴィーガンが直接の原因で欠乏症になった例は未だ聞かないという。「唯一心配されるのは、ヴィーガンの母親の母乳で育った子供が、そのままヴィーガンになった場合です。その場合は万が一を考えてサプリメントで摂取した方がいいと言われていますが、まだそうした例は報告されていません」。
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