先行き不透明な時代、5年、10年先でさえ、仕事や暮らしがどうなっているかを正確に見通せる人は少ないでしょう。老後に至っては、皆目見当がつかないのが本音だと思います。世代によっては、65歳から「掛け金以上の年金」がきちんと受給できると思っている人は、少ないのではないでしょうか。

このように長生きすることが、金銭的なリスク要因になっています。そんな中、老後を少しでも安心に暮らすための制度として注目を集めているのが、「個人型確定拠出年金」(iDeCo:以下イデコ)です。公的年金の上乗せ制度として始まったイデコは、法改正により2017年からは20歳から60歳未満であれば基本的には誰でも加入できるようになりました。ほかの金融商品に比べて「税制優遇」が手厚いので、活用しないのはもったいない制度といえるのです。

老後資産は運用次第で差が出る
老後の生活設計を考えるとき、まず思い浮かぶのが公的年金です。公的年金は原則65歳から受け取れる国の年金であり、生きているかぎり支給され続けます。老後の基本となる収入源なので、公的年金を中心に老後の生活設計を立てる方が多いと思います。

公的年金は、現役時代に「決まった金額を納めていくシステム」なので、将来もっとたくさんもらいたいと思っても、掛け金を上乗せすることはできません。また、自分で運用して増やすこともできません。このように自分ではコントロールができないのが特徴です。

一方、もらうときは、偶数月の15日(15日が土・日・祝日にあたる場合は前日)に自動的に指定の口座に振り込まれるので、たいへん優れた制度です。しかし、これは現時点でのルールであって、将来改変されないとも限りません。それぐらい、公的年金制度は維持していくのが難しくなりつつあるのです。そこで、国は支援策を打ち出してきました。その代表格が、イデコというわけです。

制度自体は2002年1月からスタートしていましたが、その存在はほとんど知られていませんでした。今ではそのメリットが知られつつあり、若年層を中心に徐々に加入者が増えてきています。

イデコは公的年金と違い、すべて自己資金を拠出し、加入者自ら運用、管理していく「自家製年金」です。貯金型から投資信託まで、運用商品は自由に選べます。そのため、将来どれくらいの資産ができるかも、どの商品を選んだかによって変わってきます。つまり、運用結果も自己責任になるのです。

イデコのメリットは以下の3つに集約されます。

@ 掛け金が全額所得控除される

A 運用益は非課税になる

B 受け取り時にも税制が優遇される

特にメリットが大きいのが@の所得控除、つまり「節税効果」です。たとえば、年収500万円(所得税10%、住民税10%)の人が、イデコで毎月2万円を積み立て投資した場合、毎年4万8000円も節税になります。これが60歳まで毎年続くことになるのです(掛け金を変更しなかった場合)。それだけでも、老後の資産形成において現時点で「最強の制度」といえるかもしれません。

毎月の掛け金の上限は、加入者の勤務先での企業年金制度の有無によって変わってきます。また、掛け金の拠出は60歳までしかできません(ただし、70歳まで運用可能)。これらを換算して、あとどれくらいの期間拠出できるかが決まってきます。老後資金が目的なら、公的年金(老齢年金)と一緒に考えることで、具体的な拠出金額の設定などがイメージしやすくなるでしょう。

ポイントは「いつ」「いくら」「何年」で受け取るか
イデコで運用する際のポイントは、受け取るときのことを考えて商品を選択することです。大切なのは、「いつから受け取るか」「(毎月)いくら受け取るか」「何年で受け取るか」といったシミュレーションをしておくことです。

登山なら、頂上に行くルートだけでなく、下山ルートまでしっかりと計画を立てると思います。同じように、老後資金の場合も、出口である受け取りまでしっかり計画をしておけば、いざというときに金銭的に困窮する事態が避けられます。?

老後のための資産形成をしている人はたくさんいますが、受け取りのことまで考えている人は案外少ないものです。もちろん、将来どうなるかはわからないと思いますが、ある程度ご自身で描いているライフプランをもとに受け取りについて考えることが大切なのです。
http://toyokeizai.net/articles/-/211269