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ほかの業界と同じように、テレビ産業でも専門用語が使われている。スペックと技術を示すアルファベットのごった煮で、重要な情報もあるが、残りは特に役に立つことを説明しているわけではない。マーケティングのたそがれから浮かび上がってきたものが大半を占める。

この意味において、サムスンの146インチの新型テレビ「ザ・ウォール(The Wall)」は、消費者にはまだ親しみのない単語を引っ張り出して来てみせた。「マイクロLED」だ。

まずはよいニュースから始めよう。マイクロLEDは実在する技術だ。現在、市場を支配するLEDテレビ[編註:液晶テレビのバックライトにLEDを使ったタイプを指す]を大きく進化させたもので、CESでお披露目されたザ・ウォール(たいした名前だ!)も、ただの試作品でも幻の製品でもなく、年内の発売が決まっている。

しかし、この製品が業界に与えるであろうインパクトや、そもそもなぜ存在するのかを理解するには、もう少し背景を知る必要がある。一般の消費者が次に購入するテレビはほぼ確実にマイクロLEDではないだろうし、下手をすればその次に買うものも違うだろう。それでもいつの日か、このテクノロジーはいま市場に出回っているどのテレビよりも大きく、明るく、美しい製品を実現する手段として業界のスタンダードとなる可能性を秘めている。

LED、有機EL、マイクロLED
では、技術的な部分に踏み込んでみよう(大丈夫、ほんの少しだけだ)。市場を席巻する現行のディスプレイ技術は発光ダイオード、すなわちLEDを用いている。ただこれは少し不適切なネーミングで、なぜならLEDは白い光を発するだけである。その白い光を利用してテレビの画面に映像を浮かび上がらせるのは、液晶、偏光フィルター、カラーフィルター、そしてガラスだからだ。

LEDは素晴らしい技術で非常に美しい画像を表示できるが、バックライトを使う。このため「宇宙空母ギャラクティカ」のどんちゃん騒ぎに魅入ってしまうほどの完璧な真っ暗闇を描写するのは苦手だった。

暗いシーンではバックライトが漏れて黒い部分が白っぽくなってしまう「黒浮き」が生じて、画像調整に無駄な時間を過ごすことになる。この問題はエッジ型と呼ばれる製品では特に顕著で、上下左右のどこかの隅から光が漏れて、テレビの淵に奇妙な後光が差しているかのように見えてしまう。

実際にどうなるか知りたいなら、テレビをつけてみればいい。LGかソニーの製品でなければLEDだ(メーカーが「スーパーUHD」とか聞こえはいいがよくわからない名前をつけていたとしても、結局のところは同じものだ)。そう悪くはないだろうが、もちろん改良の余地はある。

そして実際に改良されたものが存在する。「LGかソニーでなければ」と書いたのはこのためで、この2社は有機ELテレビをつくっている。有機ELはバックライトを必要とせず、代わりに有機物に電圧をかけて発光させることで、必要に応じて個々のピクセルから光を出している。

バックライトがないため光が漏れることもない。黒は極限まで黒だ。コントラスト比はけた外れで、画質はディスプレイの評価を手がけるDisplayMateのレイ・ソネイラが2015年に言ったように、「見た目では完璧と区別がつかない」。

素晴らしい! まさしくマイクロLEDが到達しようとしている品質なのだが、それでも技術改良は続く。

マイクロLEDも有機ELと同じようにバックライトに見切りを付け、赤、青、緑のサブピクセルから構成される極小のLEDを採用した。一方で、有機ELにおける有機物は無機素材(うんちくを語りたい読者のために書いておくと、窒化ガリウムという物資だ)に置き換えられた。

ソネイラは「有機ELは有機素材を使っているため、経年劣化で明るさが失われます。また劣化が均等でなければ、画面にムラが出じる可能性もあります」と話す。「LEDは無機物で有機ELより明るく、劣化の影響も受けにくくできます」。また有機ELは、長時間にわたり同じ画像を表示し続けると、別の物を表示したときに残像が出てしまう「焼き付き」を起こすこともある。

さらに有機ELは、その製造工程のために形状と大きさに制約がある。サムスンはザ・ウォールに使われているマイクロLED技術を「モジュラー」と表現している。これはどうやら、LEDパネルのサイズは購入者の注文通りに設定が可能ということらしい。

つまり最高のテレビということだ。
以下ソース
https://wired.jp/2018/01/11/samsung-the-wall/