10月に行われた衆議院議員総選挙は、まだ記憶に新しい。多くの候補者がしのぎを削ったが、もちろん当選するのはそのうちの一部だ。落選した場合は、新しい仕事を探すことになる。また、候補者だけでなく、秘書や事務所職員なども、選挙結果によってその職を失うこともあるだろう。そうした人たちの中には、再就職に人材紹介会社を利用しようと考える人もいる。

選挙で落選、再就職希望
選挙と聞いてまず思い出すのは、以前、転職相談に来たAさんだ。もともとは建築設計の仕事をしていたが、20代で政治家の秘書に転身し、国会議員にも立候補したという。しかし、結果は残念ながら落選だった。

「私のような経歴の方で、紹介会社を使って転職された方はいらっしゃいますか」

Aさんは自分のキャリアが、一般企業だけに勤務していきた人とは異なることを気にしていた。

「ご紹介できるのは、もともとご経験のある建築設計関係の仕事が中心になると思います。また、一部のコンサルティング会社などは行政向けの仕事をしているので、求人を探してみましょう。ただ、Aさんのご経験にぴったりと当てはまるものがあるかどうか……」

私は正直に、政治関係のキャリアを生かした形での転職をお手伝いしたことはない、とAさんに告げた。人材紹介会社では、政治経験者や元秘書などの転職を扱うこと自体がもともと少ないのだ。そもそも、政治家は人脈や支援者がいなければ成り立たないので、そうしたコネクションを通じて再就職する人が多いようだ。

「ところで、Aさんは今後選挙があった場合、再度立候補される可能性はあるのでしょうか」

私はAさんが「参考までに」とくれた、選挙ポスターを縮小したような写真入りの名刺を見ながらたずねてみた。せっかく採用しても、「選挙に出るので」といって数年で退職されたら、企業も困るだろう。

「いえ、今はもう、再度政治の道に進みたいという気持ちはまったくありません。やるだけのことはやったので、自分の中でけじめはついています」

Aさんはきっぱりと言い切った。ただ、これまでのキャリアを生かすといっても、建築設計の会社からすると、政治活動をしていた期間はブランク扱いになってしまう。

「まずは求人を探してみますので、少々お時間をいただけますでしょうか」と言ってはみたが、ブランクのある人材、しかもブランク期間中に政治活動をしていたAさんを、人材紹介会社経由で採用してくれる企業があるかどうかは微妙だった。

できれば一般企業に再就職したい
「その後、求人の状況はいかがでしょうか?」

求人情報を提供できないまま数週間がたった頃に、Aさんから連絡があった。私としてはおわびするしかない。

「申し訳ありません。今のところ、ご経験にあう案件が出てきていないんです」

「そうですか。実は、ずっとお待ちするわけにもいかない状況になっていまして……」

他社も含めて、人材紹介会社からあまり良い情報を得られなかったAさんは、知り合いに仕事の紹介を依頼していたのだという。

「以前とは違う政治家の事務所で秘書をやらないか、という話をもらっているんです。先方は即戦力として評価してくれているようです。しかし、私の希望はあくまでも一般企業。正直に言うと、個人的にあまり乗り気ではないんです。あと一週間くらいで、良い求人情報が出てくるようなことはないでしょうか」

数週間待って具体的な案件がなかったのだから、一週間で急転するとは考えにくい。私はありのままをAさんに伝えた。

「やはり、そうですか。他の紹介会社からもいい話がありませんし、先ほどお話しした政治家の事務所からも来るなら早めに来てほしいと言われているので、いったん来週から秘書として勤務することになると思います。ただ……」

Aさんは残念そうな声で言葉を続けた。

「いったん再就職はしますが、御社への登録はそのままにしておいてください。いい求人があれば教えて欲しいんです。秘書の仕事は、企業への転職が決まったら辞めるつもりです」

「承知しました。ご登録はそのままにしておきます」

そうは言ったが、その後もAさんに具体的な求人を紹介することはできなかった。

「政治」は、社会に必要な仕事であるにもかかわらず、特殊なキャリアとして扱われ、企業からは「ブランク」として捉えられることも多い。選挙が始まって、Aさんのことを思い出すたびに、私は「これでいいのだろうか」という思いにかられてしまう。
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